自炊者になるための26週
三浦哲哉(2023)
朝日出版社
要約
「風味」を中心に置きながら、料理に関する26の要素について語る本。具体的な方法論のみならず、料理を通して得られる経験を叙情的に記述しており、読み物としても楽しむことができる。
感想
帯に國分功一郎氏の推薦文がある。「知識と楽しみはこうして一体となる。(後略)」と。人の言葉を借りて感想とは何事であるかだが、これ以上に的を射た文章が出てこない。
とはいえ流石に感想文にならないので書いていく。
本書はまるで、親を始めとした自分に料理を作ってくれた人に教えを乞うような暖かみがありながらも、料理本としては従来なかった新鮮さを纏っている。
まず、風味を科学的に分析のみならず詩的に解釈している点が良い。例えば「風味がその素材の故郷の風景を喚起させ、在りし日の記憶のさざなみを揺らす」といった文言は(引用でなく私が要約した)、文章としての味わい深さもさることながら、今後自分が料理をする際にもこの文章を思い出して素材の風味が展開する世界に浸れるようになる。1文で2度美味しい。
つまり著者の料理への深い愛情が、抒情的な文章で描かれており、この点でいえばどちらかというとエッセイに近い趣がある。
一方で、しっかりと料理の方法論、レシピについても書いている。どうすれば風味を楽しめるかは勿論のこと、風味の揺らぎも込みで楽しめるようになるための方法が載ってある。ここはレシピ本に近いように思える。
このように、エッセイとレシピの2つの要素がおいしく混ざり合った本というのは私にとって非常に新鮮で、徹頭徹尾じっくりと味わいながら読むことができた。
余談:
おいしいトマトを仕入れたので、缶詰を使わず、塩以外は具材のみ(トマト、ナス、しいたけ)で味付けしたパスタを作った。むっちゃおいしかったし、風味の揺らぎがなんとなくわかった気がする。料理って楽しいのかもしれない。