黒い絵
原田マハ(2023)
講談社
要約
芸術と人間の黒い愛憎が織りなす全6篇。
感想
作家としての能力があまりに熟達している、すごい。
著者の今までの作品群から見ると、意外なジャンルであることは間違いない。実際、「本日は、お日柄も良く(徳間書店)」や「一分間だけ(宝島社文庫)」のような作品と比べるとえらい違い。
しかし「ノワール小説」と一言で表せるように、ジャンル名が付いているくらいには広く書かれてきたテーマであり、作品そのものへの目新しさはあまりない。
それでも作品世界への引力の強い作品を書けるのは著者の筆力の成せる技だと感じた。
……
とか書こうと思っていた、というか書いていた。(私は読みつつ感想書きつつを交互に繰り返しながら読書するタイプ)
全て読み終え、各話の「初出」を見る。
4作は2007,2008年に書かれている。
熟達とかじゃなく、ただただ作家としての能力が高すぎる。ずるいよ。
著者の作品の特徴として、文章の簡潔さがあげられると私は思う。これはよくも悪くもである。文章が簡潔すぎることで、情緒や作品世界のゆらぎが生まれにくくなってしまうからだ。
しかし、本書に関していえばそういう1文1文の有無を言わせない短さが、醜くどろどろとした欲求と良い具合にマッチしていたように思う。無慈悲で冷酷で、共有できない悦びが淡々と綴られていく様子がけっこう好みだった。