「むなしさ」の味わい方
きたやまおさむ(2024)
岩波新書
要約
むなしさは避けられない。どう生きていても。
期待外れなことが起こるかもしれないし、努力が報われないかもしれないし、生きる目的が見つからずただただぼんやりとSNSを眺め続けることだってある。そういうとき、多くの人はそのむなしさを早く解消したいと考える。不安定な状態を解消したいと考えるのは当然である。しかし著者は、むなしさの中でしか存在しない感情や可能性があり、むなしさを解消するのではなく受け止めて味わうべきだと論ずる。
感想
沼地の例えが印象的である。
心にはやり場のない感情やむなしさを溜め込む底なしの沼地がある。そこは現実の沼地と同様、どろどろして汚く臭い。しかし現実の沼地が汚穢を分解して自然へ還元するように、心の沼地もまた、むなしさを分解してクリエイティブ等の別の成果へと還元してくれる。
現代社会では、心の沼地を溜め込まないようにするためのコンテンツがたくさんある、ありすぎるくらいである。結果として、溜め込まずすぐに発散してしまう現代人は、むなしさを受け入れる心を持てずに苦しむ。
だからこそ、むなしさを味わうべきだ。沼地が汚いものを分解して還元するように、我々の心もまた、むなしさと共生することでよりよくなれるのではないかと説いている。
すごく良いことを言うなとしみじみ思う。
一方で、表題にある「味わい方」についてあまり触れられていないことに少しもやもやする。「むなしさの効能」みたいなタイトルのほうがしっくりくる気がする。そしてこのもやもやは以下に理由を書き連ねることで発散してしまおうと思う。
むなしさが悪でなく、共存すべき存在であるのは間違いない。しかし、わかっていても中々むなしさを受け入れられない人が多いからこそ「味わい方」が重要なのではないだろうか。正直、むなしさを受け入れようと思えるかどうかは本人次第で、外力が働いてどうこうなるものでもないとは思うが、1つの方法論として参考になったはずなので、もう少し「味わい方」について深堀してほしかったように思う。
とはいえ自分の心の在り方を見直す機会になり、とても良い本でした。
余談:
マシュマロテストの情報が著者の方でアップデートされていない(実は再現性がないと言われていること)のが残念。
と、書こうとしていた。
書こうとして気が付く。これ、今回たまたま私が気付けただけで、実は間違った情報をそのまんま読んでしまっていることが頻繁に起きているのではなかろうかと。
自分の読書に対する姿勢も見直す機会になった。