息吹【読書感想文】

息吹

テッド・チャン, 大森望(訳) (2023)

早川書房

要約

限りなく人類に似ている種族。他者と会話し、学び、生きている。相違点は、彼らの体が機械から成っており、給気口と呼ばれる場所から機械の肺に空気を溜め込むことで駆動している。しかしデウスエクスマキナではなく、あくまで人間であり、自らがどのようにして物事を記憶し、忘却していくかが専らの研究課題である。脳を直接研究するのが一番手っ取り早いが、倫理的に良しとされない中、主人公は自らの脳を自ら分解して観察する手段をとる。分解した果てに見える極小の世界で駆動する自らのパーツに見出した答えとは。(息吹)

表題作含む、全9篇からなるSF小説。

感想

インターネットでも、現実世界でもおすすめされた本。

おすすめされすぎていて、高くなりすぎた期待値を越えてくれるかかなり不安だったがしっかりと越えてくれた。

個人的には「商人と錬金術師の門」「予期される未来」「偽りのない事実、偽りのない気持ち」が好き。以下、全体の感想を述べる。

作家と作品がかなり分かれていることに驚いた。

全ての作品で読者に自身の人生について考えさせるような意匠が施されているので、作家自身もそういう問いを常に自分に課しているような思いつめた人間かと勝手に思っていた。

しかし作品ノートを読む限り、作品を書こうとして書いているように見受けられる。つまり内から滲み出るような、身を削り自分の血肉を練りこんでいる必死さはなく、けっこうあっけらかんとしている。

諦観と孤独。人生や他者との関係を突き詰めた先にいるような気がした。(私はまだその極致に到達していないため定かではないが)

著者は自身の運命と可能性の限界を全て受け入れている。したがって極端に一喜一憂することがないから、あっけらかんとした印象を受けるのではなかろうか。そして、全てを受け入れた上で無気力にならないからこそ、予期される未来のようなラストを書けるのではないだろうか。(じゃあ作者の原動力ってなんなんだろう)

あれ、作家と作品は結構近しいのでは?

最初と真逆の考えになってしまった。

本来は書き直すべきだろうが、思考の過程を残しておく意味でそのままとする。

とにもかくにも、おすすめされすぎたせいで作品よりも著者の人となりについて気になって仕方がなかった。(勿論作品はすべて面白いかった。)

あなたの人生の物語も読んで、はやく完全体になりたい。