北京の台所、東京の台所
ウー・ウェン(2021)
ちくま文庫
要約
北京生まれ北京育ちの著者は、社会人になってから渡日し、日本人の男性と結婚し過程を持つようになる。2つの国の台所を知る著者が経験を踏まえて綴る家庭料理を中心としたエッセイ。
感想文
期待とは違っていたものの、優しく沁みる良い本。
私が期待したのは、タイトルの通り北京と東京の料理やその環境の違いを情報として取り上げていることだった。しかし、本書を正確なタイトルで表現するならば「”著者の”北京の台所、”著者の”東京の台所」であり、普遍的とは全く対照的な、極めて個人的な経験に基づいたものとなっている。
著者の経験談ゆえに、本書の内容が実際の北京の大多数の人々の生活に近いかどうかは判断がつかない。しかし、つける必要もない。なぜなら、著者の半生は様々な食と密接に結びついており、著者の人生と食事を追体験するだけでとても満足度の高い読書経験になるからである。
料理にも足し算と引き算の世界があります。[中略]ひょっとするとお茶は、私の求める家庭料理が目標としているものをもった世界なのかもしれない。
p.131
蓋し、本書が私の中へ沁みていく理由がここに凝縮されている。著者は茶道の洗練されたわびさびを「目標(かもしれない)」としている。北京だろうと、東京だろうと、著者の根底には引き算されたシンプルな家庭料理がある。変に取り繕ったり盛りつけたり豪奢にしたりせず、等身大で、料理に向かい合っている。料理だけではない。夫や、子供、周囲の人々にも、おそらく著者は誠実に向かい合っているのだろう。文面から、そうした素朴な誠実さが嗅ぎ取れて、私の心までもが優しくなったように錯覚する。
良い本。
余談1
本書は文庫化に改題されている。改題前は「東京の台所、北京の台所」である。中でその理由に触れられることは一切なく、なぜ順番を入れ替えたのかは謎である。
検索しても出てこないし、読書メーターで気になっている人もいない。なぜ???私はめっちゃ気になる……。
余談2
解説の文章、納期に迫られて推敲をあまりせずに書いた趣があるのだが気のせいだろうか(編集者がいらっしゃるはずなので、そんなことはなさそうな気もするけども)。
わかりやすいところでいうと、本書で本名フルネームで語られるのが吉田日出子氏のみだと書いているが、実際には土井勝氏、土井善晴氏が登場する。
それだけでなく、文章が全体にとっ散らかっている。「そういえば」が連続するだらだらした会話のように、連想ゲーム的に話が膨らんでいき着地点が見えず、実際うまく文章を締めくくれていない印象である。
ただこれが文章力のなさというよりも、ざざっと走り書きしたように思える。なぜそう思えるのだろう。なんとなくとしか言えないのだが、とにかくそういう雰囲気を感じる。間違っていたら私の全面的な勘違いであり、自分の無知無恥を反省します。