ウクライナのサイバー戦争
松原実穂子(2023)
新潮新書
要約
サイバー空間で行われる戦争を中心に、2014年のクリミア併合から発刊当時の最新の戦況までをレポート、分析した本。後半には、台湾有事への影響や日本が何をすべきか等の、日本人に比較的近いところにも焦点を当てられている。
感想
サイバー戦争の状況を外の人間に伝えるのがいかに難しいか考えさせられる本だった。
1. 技術として
どのように攻撃するか、というプロセスで語られるべきなのは100%技術であるが、もちろん素人が理解できる内容ではない。
しかしそれを抽象化して説明すると「侵入した」「ダウンさせた」「盗聴した」と、あっさりしたものになってしまう。新しいマルウェアやランサムウェアがいかに凶悪でいかに厄介なのかを説明するには、技術的な説明を避けては通れず、ここに1つの難しさがある。
2. 情報として
当たり前だが、戦時中で全ての情報が公開されるわけない。
したがって、ただでさえ技術的にふわっとしがちな説明が、詳細なデータや情報にも基づけず、よりふわっとしてしまう。
まあ、ここは戦後に公開される可能性もあるので、タイミングとして仕方のないものともいえる。
3. 読みやすさとして
カタカナがとにかく多い。読みづらい。
外国の戦争ゆえ人名・地名が全てカタカナということもあるが、仮に舞台が日本だったとしても相応に読みにくいと思う。技術的なキーワードにはカタカナが多いからだ。
かといって日本語の技術単語を作ったとしても魔の表記ゆれが勃発すること請け合いで(カタカナだけでも発音の問題で表記ゆれがたくさんある)、これも中々難しい。
改善案
以上、本書の読みにくさを考えてみた。
1はそもそも戦況ルポをテーマにした新書で書く領域でない気がするので、せめてどこかで初学者向けの技術書をいくつかピックアップして紹介するのが妥当だと思う。
2は先に挙げた通りタイミングとして仕方ないように思う。ただ、本書に限った話でいえばもう少し著者の考察を書いても良かったようにも思う。事実を淡々と述べることに徹していて、人によっては「……で?」に陥りかねないように感じた。
3はフォントや文字サイズ等でどうにかするしかないのかなあ……。一方で「新潮新書」という枠組みの中で一冊だけずれるわけにもいかないし、案外これが一番難しい課題なのかもしれない。
ここまで読みやすさについて書いてきたが、最後に内容にも触れておく。
時系列順に、(良くも悪くも)淡々と公開されている情報を列挙し、まとめているので、世事に疎い私でも、どういうことが起きて、誰が、何を、どういう思いで動こうとしているのかを追っていくことができた。したがって、読みにくさはさておき、本書はそれなりに良い本だと思う。
余談
ウクライナ政府がオンプレからクラウド(AWS)へ完全ではないものの移行した出来事を知り、パラダイムシフトを感じた。
一国の情報が、海外の一企業によって管理される。これは果たして良いことなのか。いくら米ウが対露を目的に協力していたとしても、中々考え物のように思う。
そうして色々調べて知ったのが「ガバメントクラウド」
なんとさくらインターネットが国産クラウドを設計しているそうで、自分が世情に疎すぎるだけなんだけれども、衝撃を受けた。これは面白い。