書きあぐねている人のための小説入門
保坂和志(2008)
中公文庫
要約
小説家、保坂和志による「小説とは何か」という問いを出発点に小説の在り方から書き方を考える本。
感想文
著者が「小説」という存在にとても誠実であることがしっかりと伝わり、小説を書く/書かないを問わず小説をより好きに、より面白がれるようになる名著。
デイミアン・チャゼル監督作のバビロンに似た雰囲気を感じた。ストーリーでなく小説を読む行為そのもののプロセスを重んじているところや、小説という産まれる前から存在し死後も存在し続けるであろう果てなく大きいものに想いを馳せるところなどが近く感じた。(バビロンを鑑賞したのはもう2年も前のことなので、記憶に誤りがあるかもしれない)
ただ、1点だけ首肯できないことがある。
小説の技術なんて「そこそこ」で十分なのだが、小説というもののイメージ、そして、つまるところ「小説とは、どうしてこういう形をしているか」という問いかけを忘れてしまったら、形だけは小説だけど、内側で運動するものが何もないものしか生まれない。
p.160
論旨には理解も納得も同意もできる。一方で、「小説の技術なんて「そこそこ」で十分なのだ」と言いきってしまうのは間違っていることはないけど少し違うと思う。著者にとっての「小説」の本質に技術は関与しないのだろうけど、小説は文芸とも言うわけで、私は文章の巧さも小説に含まれるように思うし、この世ならざる美しい文章を読んだ時にはこれ以上なく幸せになれる。さらに加えるならば、中身がすっからかんでも文章の巧さのみで一本読ませることができるのならば、それはもう立派な小説だとも思う。
これは著者の考えに真っ向から対立するものではない。内側で運動するものがあってこそ素晴らしい小説が産まれるというのにはすごく同意できる。「書きあぐねている人」に対して、技術ばっかりに傾倒せず内側を充実させろというのも理解できる。とはいえやっぱり文章そのものの技術というのも大事なように思う。
意見を述べて終わりたくないので最高ポイントをあげて締める。
207頁、本編終盤に差し掛かってから明示的に「さて、いよいよ小説を書きはじめる段の話」が始まる。これはもう素晴らしい。「小説とは」を突き詰めて考えなければ小説なぞ生まれないということで、最高である。
余談
読書メモ(紙媒体に残している方)に書いてあった一文、どこからそう感じたか全く思い出せないけど印象的だから残しておく。
あと、著者、人間の善性をかなり新法してるよね
私の読書メモ