一万円選書
岩田徹(2021)
ポプラ新書
要約
北海道砂川に店を構える「いわた書店」で行われている事業、一万円選書。文字通り一万円分の選書を店主の岩田徹氏に行ってもらうもので、年間約3000人の応募者がいる。その選書にどのような営みがあるのか、著者は何を考えているのか、どのような本が選書されるのか、等を岩田氏自身が解説し、一万円選書を通して得た個人書店を経営することや読書の意義がが書かれている。
感想
一万円選書がすごく素敵な事業であることに間違いはないのだが、それ以上に著者がその事業を60歳から始めたというのがとにかく印象に残っている。
しかも、一万円選書は赤字が続く中の打開策として提案されたものであって、著者は60歳までずーっと出版不況を赤字のまま耐え忍んでいたのである。
正直、私には無理。果てしない、途方もない。
彼は読書カルテをセラピーに例えているが、そのセラピーで選書される本というのはおそらく著者自身をも救ってきた本たちなのだろう。ただ一万冊読んだだけでは到底得ることはできない人生の重みがあり、だからこそ応募する人がたくさんいるのだろうと納得した。
そして、一万冊選書を通じて彼の人生が他者へとおすそ分けされていく。きっと彼の選書を読めば、ほんの少しだけ前向きになれるのだろうと、そう感じた。
余談
運命は、どうしてかくもいじらしいのか。
1) 読むタイミング
一万円選書の募集期間は年に一度、今年は4月1日~7日だったらしい。
あと一週間早く読んでいれば…….。悔しさに滲む思いである。
2) 朗読者
私は本を読みつつ次に読む本を選ぶ。ひどいときは次の次の次の次の次に読む本まで決まっていることもある。
一万円選書を途中まで読みつつ、本棚から次何を読もうか考えていたとき、ベルンハルト・シュリンクの「朗読者」が目についた。最近物語を読んでいなかったし丁度よかろうと思ってそれを次の読書と決めた。
すると直後、一万円選書でも同書が紹介されている。
この興奮、この驚き、この心の動き、表現しきれないんだけれども、もうとにかく驚いた。本当に「直後」なのである。
「よし、次は朗読者を読もう。さて、一万円選書に戻るか」=> ページを開く=>一ページめくる=>朗読者が紹介されている
このくらいのテンポである。
どちらの体験にしても、運命を感じざるをえなかった。