ダニエル・ブラッシュ展【芸術感想文】

@21_21

“I wanted to do a poetry book, a visual poetry book.”

この言葉で全てが腑に落ち、ただの線や金属片が味わい深い芸術作品になった。

端的に、これはすごい。

石の上に刻まれた微細な金箔(素材が合っているか自信がない、ともかくここで素材が何かはあまり重要ではない)の線の集合は、まさしく海のように波打ち、光の当たり方によってその様相を絶えず変化させている。もう二度と同じ輝きを見ることはできない。そしてその作品は掌に収まってしまう小ささである。

僅か数センチに収められた、二度と写らない一瞬の景色。

これを詩情と言わずしてなんであろうか。素朴で、儚げで、けれどもまっすぐで美しい光がある。

何よりも光が肝である作品だから、実物を見ないとその良さが全く伝わらない点で芸術作品としての真価が発揮されていると思う。実際、無料で配布されていたパンフレットを確認したが、作品の一瞬の一場面しか切り取っていない写真では、実物の中で無限に広がる光の抒情性を写しきれていないと感じた。

詩を視覚的に表現する。これ、浅学非才な私の芸術知識ではかなりすごいことだと思っているのだが、なぜ知名度が低い(日本語で書かれた彼に関する書籍がたぶんなかった)のだろうか。彼についてもっと知りたいし、彼のような試みを行う他のアーティストも知りたい。

余談になるが、こんなに素晴らしい展示が、パンフレット込みで無料なのもすごい。東京のあのあたり、文化資本が太すぎる。

とにもかくにも、行ってよかった。