八月の銀の雪
伊予原新(2023)
新潮文庫
要約
母子家庭(正確には祖母に育てられた)育ちの主人公自身もまた母子家庭として子供を持つ。負の連鎖を断ち切れず、我が子に対して罪悪感を抱きながらその日の貧しさを乗り越える日々。電車内でのある出来事をきっかけに科博の職員と知り合い、科博にいるクジラを知る。海の奥深くで暗く孤独に生きるクジラを目の前にして、主人公は自身の人生を見つめ直していく表紙絵作他、表題作含む全5編。
感想
良くも悪くも優等生な作品群だと思った。良い作品だとは思うけど私はあまり好みではない。
物理、生物等の理科学分野の知見に基づいた話はとても面白い(interesting)のだけれど、それらがメタファーとしてあまりにもわかりやすい。わかりやすいものが悪いわけではない。ただ、わかりやさゆえにそれらが著者によって意図的に配置されたもののように思え、冷蔵庫の女のように思えてしまった。
加えて、作品が小綺麗すぎる。オチがうますぎる。
短編だから仕方ないのかもしれないけれど、「うまく纏めました感」が強すぎてあんまり心が作品世界に入っていけない。というより私の入る余地がない。
蓋し、著者は大変頭が回り要領が良い人なのだろう(そうでないと博士かつ作家なんて務まらない)。だから世間に受ける心温まるストーリーの感覚をつかむのも上手なのだろう。しかし、要領の良さで書かれた本に(少なくとも私にはそのように感じる)血肉は通っておらず、それほどの魅力は感じられなかった。
要するに、私は泥臭い小説のほうが好きということだ。