君のクイズ
小川哲(2022)
朝日新聞出版社
要約
問題が読み上げられる前に正解し、生放送のクイズ大会に優勝した本条絆。彼に敗北した主人公は、ヤラセを疑いつつも、そうではないようにも感じる。だとすればなぜ彼は問い読み前に正解できたのだろうか。彼の人生とクイズ遍歴を辿りながら、生放送の録画を見返す主人公は、クイズの持つ力と意味について考えていく。
感想
これは文学である。
白い光を浴びながらクイズに正解した後ろで、ピコ太郎が踊っている。
これは文学である。
僕は思い出す。『深夜の馬鹿力』のことを。『アンナ・カレーニナ』のことを。『三日月宗近』を、『OTPP』を。
p.144
一文を抜き取ると、全くもって意味不明、脈絡がない。まさにカオスである。
しかし、その混沌を「人生」と「クイズ」が統率し、意味と価値のある文章へと昇華させている。散らかりながらも、まとまっている。無意味なようでもあり、有意義でもある。
この揺らぎ、私、大好物。
そして物語が全て終わったあと、主人公は「少しだけ、強くなったような気が」し、「少しだけクイズのことが好きになって」「嫌いになった」。そう、いずれにせよ少しだけなのである。
主人公にとってのクイズが人生であるならば、それは本条絆がYouTubeで演出を目論むような劇的で感動的なものではないし、坂田が演出してきたような良いところだけを切り貼りしたものでもない。人生とはまさしく、艱難辛苦を乗り越えた先にささやかな幸せや不幸が素朴にあるだけなのである。
これは文学である。
クイズを通して描かれるのは、安直なハートフルドラマでもなければ、ドキドキワクワクのサスペンスでもない。テレビやSNSで少しだけ注目を浴びつつも、根底には小市民としての地道な生活と、クイズプレーヤーとして充実した日々があるだけだ。
人によっては、この素朴さ・地味さを張り合いがないと嘆くかもしれない。しかし本作はそうではない。クイズという存在が、神羅万象を個人に結び付け、人生を織り上げていく。そこにあるのは正解の音が鳴り響く圧倒的な肯定だ。これは君のクイズだ、君が出題者であり、回答者であると、そう問いかけているのだ。
何度でも言う、これは文学だ。
余談
私は普段、22:30に就寝し、5:30に起床し、出勤している。
現在、0:30である。
最悪で、最高だ。