ファスト教養

ファスト教養

レジー(2022)

集英社新書

要約

ファスト教養、それはビジネスへの「活用」に重点を置き、手っ取り早く要点を押さえて知識を吸収していく教養のことである。本書ではこのファスト教養が現代社会に広く浸透するまでの歴史的な変遷を詳細に追った上で、ビジネスに限らず、カルチャーやスポーツなど幅広い視点からファスト教養とどのように付き合っていくべきか考察する一冊となっている。

感想

これはアウフヘーベンのハウツー本と言っても過言ではない。

[前略]「既存の枠組みから自由になること」と「既存の枠組みの中で戦える知識の習得から逃げないこと」の両輪を回すことが、ファスト教養に抗いながら、ビジネス的な要請に応えていく「ポストファスト教養の哲学」なのではないか。

p.210

これは本書の結論とも呼べる部分で、私はとても良い意味で「魂を込めた妥協と諦めの結石」だと感じた。

なぜなら、この手の本にありがち(?)な二者択一で極端な主張ではなく、双方の存在を認めながらよりよい状態へと止揚するにはどうすれば良いかが考えられているからだ。正誤はともかくとして、著者にとって執筆時で最善の結論を考え抜いたであろう形跡が随所に見られて、誠実さが強く感じられる。

このように、本書ではどちらか一方の思想に偏らないバランス感覚が素晴らしい。では、このバランス感覚は何によって育まれたのか、以下にその答えの片鱗があるように思う。

[前略]筆者はファスト教養に関するムーブメントを完全な外部から糾弾する立場にはないという自己認識がある。

p.237

つまり、著者自身が当事者意識をしっかりと持って執筆に取り組んでいるのである。もし、ただの論客として、俯瞰した分析を行っただけではこのような良書にはなりえなかっただろう。

以上、1)バランス感覚 と 2)当事者意識 が印象的な良い本でした。

余談

100頁付近に、現代で跋扈するインフルエンサーたちが80年前後に生まれ、ライブドア時代の堀江貴文をリアルタイムで目撃している世代である旨が書いてあった。

きったねえローグタウンみたいでひとり大笑いしてしまった。

以下、尾籠な補足。

漫画ワンピースのローグタウンは、海賊王ゴールドロジャーが処刑された地である。処刑当日、広場には後に世界で名を轟かせる傑物たちが海賊王の死を、海賊王がワンピースは実在すると全世界に火の粉をまき散らす様子を目の当たりにしていた。

堀江貴文=ゴールドロジャー
収監=処刑
ネオリベ・ファスト教養の加速=大航海時代
80年前後生まれのインフルエンサー=処刑を見守る次世代の傑物

↑このように、どことなく構図が似ているように思える。ただし現実は驚くほどわくわくしない。