バッタを倒しにアフリカへ

バッタを倒しにアフリカへ

前野ウルド浩太郎(2016)

光文社新書

要約

小さい頃から昆虫が大好きな著者がバッタの研究者となり、モーリタニアを悩ませる蝗害を打破すべくフィールドワークへと向かう。加えてポスドクであるため、数年後には収入源がなくなり無一文となる。そのため何としてでも結果を残さなければならない。著者の努力は、バッタを媒介して様々な人と結びつけ、思わぬところから成果が生まれる。

感想

著者の人格とバッタが全てを繋げる素晴らしい話。

ささやかなことながら、誰かに喜んでもらえることに私自身が救われていた。

p.96

この一文で著者への信頼がぐっと高まり、そのまま最後まで落ちることはなかった。あとがきにはラマダンを引き合いに、ありふれた日常への感謝を忘れない心を語っているが、いかに環境が過酷であっても著者のように振舞えない人は多くいる。むしろ、余裕のない環境だからこそ我儘に傍若無人になる人だっている。

本書に通底しているのは、著者のおおらかさと優しさである。

冒頭では数々の騙されたエピソードが登場するし、現地の研究者たちからは白い眼で見られる。相棒となるティジャニでさえ給料を騙し取ろうとしている。しかしそれらに対して憤慨する様子は、少なくとも文章には見られない。著者は、窮地からも学び、逆境を糧にできる人間だからである。

だからこそ、読んでいて底抜けに明るく楽しいし、元気を貰える。終盤にて、著者は日本へ凱旋帰国し、母校やテレビで夢を叶えた話をしている。確かにそういう側面もあるかもしれないが、それとて、人によっては嫌みや過度な自慢に聞こえてしまうことだってある。著者の話を抵抗なく受け入れられるのは、著者の言葉の端々に感謝と思いやりと茶目っ気が散りばめられているからだろう。

本書は素晴らしい。バッタや奇抜な表紙等で目を引きながらも、蓋を開けてみれば「前野ウルド浩太郎」その人が大変魅力的なのである。著者自身が魅力的であるからこそ、毎ページ読んでいて楽しいのだ。

先月には著者の新刊が発売されたそうで、ぜひ読みたい。