野良猫姫

野良猫姫

ファン・インスク, 生田美保(2014)

クオン

感想

良い意味で他の「新しい韓国の文学シリーズ」より軽く、それでいて人々の生活の息遣いを感じられて味わい深い作品である。

著者はあるところで「私の精神は非常に怠惰だ」と表明しているそうだが、著者の観察眼は全くそうではない。本書の物語の土台を支える野良猫たちはもちろんのこと、主人公を中心とした貧困層や、いとこらの富裕層、強烈な格差を描きながらもどちらかに偏ることなくそれぞれの日常を仔細に描いている点で、著者のバランス感覚と観察力の長を実感させられる。

ただ正直、今の私にはあまり刺さらないところがある。現時点での私は、長く軽い話よりも、短くて濃い話を読みたい。それこそ、昨日読んだ「ショウコの微笑」は、一話一話が大変濃い短編集となっていてとっても好みだった。

一方で、ふとしたときに手をとって数頁読みたくなるのはこういう本なのだろうとも感じた。本書は、大枠のストーリーはあるものの、1頁目からまっすぐ読む必要はない。途中から読んだとしても、人生の途中で知り合った友達のような感覚で読める。そういう意味で、本書は私にとって今すぐには必要ないけれど、いずれ読み返す日が必ず来るだろう作品だった。

追伸:猫の鳴き声が必ず「ニェ~」なのが、良い感じに肩の力が抜けてほっこりする。