殺人者の記憶法
キム・ヨンハ, 吉川凪(2017)
クオン
感想(作者の言葉を読む前)
あんまり面白くなかった。理由は2つある。
まず、主人公がp.148(本編は全153頁)で負けを悟るまで、終始高慢であること。周囲の言葉に耳を貸さず、ひたすら他者を見下し、自身の犯罪を誇らしげに語る様子を延々と垂れ流されていると、読む気は確実になくなっていく。それが、認知症患者の実態として受け止めることはできるものの、フィクションとして読むには面白くない。
そして、認知症を扱った作品なら「明日の記憶(光文社)/ 荻原浩」のほうが味わい深い。サスペンスとハートフルでジャンルは全く異なるので比べるべきではないものの、あちらのほうが認知症の描写も丁寧だったように思う。
感想(作者の言葉を読んだ後)
自分語りで終わってしまった。
訳者あとがきにあるように、著者は記憶について何かしら興味を持っており、記憶の曖昧さによる虚無を作品として表現したと考えることができる。
その営みの趣旨は理解できた一方で、私の評価は依然として高くない。言い換えれば、単に好みでもないとも言う。私の好きな作品は意志を強く感じられるものであるが、本作はその真逆、空虚である。作者の言葉では「私が書かなければ」とあったが、書くというよりも「作成する」という感覚に近いように思った。ゴッホというより、モネらしいような気がした。