小さくも重要ないくつもの場面
シルヴィー・ジェルマン, 岩坂悦子(2024)
白水社
感想
日本で一般的なサラリーマン生活を送る私にとって、かなり特殊な人生を過ごした主人公リリ/バルバラだが、どこか他人事には思えない。彼女の経験した出来事は私の人生にかすりもしないのに、すごく身近に思える、不思議な作品。
そう感じる理由の1つは間違いなく描写力だろう。同じフランス文学であるジャン・クリストフ(ロマン・ロラン)を思わせる細やかかつ雄大な筆致は、人生の各場面の細部を逃さず描ききる。ゆえに、具体的な経験として通じることはなくとも、抽象化されたところで作品と心を交わすことができる。
また、本作では明確な主張や回答が用意されていない。あるのは、人生と向き合い続ける思考プロセスである。生きた人間の、血の通った人間の、何十年もかけて醸成された人生に対する目線は、確実に読者の心を揺さぶる。少なくとも、私は感じた。人生という大きなものの中に散りばめられた、取りこぼしてはいけない小さいものは何かと、少しばかり考えた。
余談(反省)
細切れに読みすぎた。ちゃっちゃか読みすぎた。本書はもっとじっくりと、長時間かけて味わうべきだった。血の通った感想は再読した際に書きたい。