少女小説とSF
【編】嵯峨景子
【作】新井素子, 皆川ゆか, ひかわ玲子, 若木末生, 津村時生, 榎木洋子, 雪乃紗衣, 紅玉いつき, 辻村七子
星海社
感想
少女小説を全く読んだことがないけれど、単なるSF小説としてのクオリティだけでも大変高く、満足感のあるアンソロだった。
以下、個人的に好みだった4編の感想を書く。
この日、あたしは / 新井素子
この文体から放たれる「対AI保守派」のギャップが面白すぎる。
加えて「少女小説」と銘打ったアンソロの先鋒で「あたしは……大人になりたい。」と確固たる意志をもって締めくくられる展開にも衝撃を受ける。愛する存在を守るために少女の口から放たれるその言葉は、少女というにはあまりに重たく、心にずしんと響く。
AIやモラルのトレンドを取り入れつつも、(読んだことはないけど)少女小説らしい書きぶりで、鮮やかなタイトル回収とともに突き抜けていく読後感。あまりにもパーフェクトすぎる。マイベスト。
あなたのお家はどこ? / 榎木洋子
読んでいてとにかく楽しい。
掌編でありつつも起承転結がしっかりと構成されていて、タイトル回収とともに迎える読後はとっても爽やか。
さらには「新惑星あるある」やどうあがいても埋まらないリアルなラグなど、世界観を抜かりなく創り上げているので非常にわくわくさせられる。
文体も、(読んだことないけど)少女小説然で軽やか。満足感がありつつも、すっきりとした味わい。良い。
一つ星 / 雪乃紗衣
静謐な極寒ディストピアは私の嗜好に刺さるんだわ。
一人称で、主人公の視界を通すからこそ美しくなる景色がある。だからこそ、終盤を第三者の視点で片付けてしまったのは少し残念。どうせなら、最後までエスリンの視点で描ききってほしかった。
或る恋人達の話 / 辻村七子
「ナポレオン法典EX」に「ブルボンPro」はもう、笑うしかない。声を上げて笑った。私の知らない少女小説という世界は、なんて自由な発想で描かれているのでしょうか。
だのに、なのに、「僕がいて、君が僕を愛してくれるのではなく、君が僕を愛してくれるから、僕が存在できている(意訳)」という激重激エモセンテンスが突然飛んでくる。それまでコメディ色が強かったからこそ、より胸に深く刺さる。
前述のコメディ色しかり、国とジェンダーについてかなり切り込んだことを言っておきながらも強すぎる悲壮感はなく、著者は良いバランス感覚を持っていると感じた。楽しくも味わい深い素敵な作品。
余談
新刊で買ったのだが、紙から、ファミ通やゲームの攻略本の匂いがする。紙の種類に詳しくない(というか全くの無知)が、同じ種類を使っているのだろうか。