論理が伝わる世界標準の「書く技術」
倉島保美(2012)
講談社ブルーバックス
感想
これはある意味で芸術作品と言えるのかもしれない。とにかく過不足がなく、書く技術に乏しい人のみならず、ある程度熟達した人でも飽きずに読める良さがあり、極めて完成度が高い。以下、ここ好きポイントである、1)例示の多さ2)形容詞の少なさ3)入れ子構造を語っていく。
まず、例示が「書く技術」指南に劣らずとにかくたくさんあって、かなり実践的であるところが良い。第三部のビジネス実践例はもちろんのこと、その他の場所でも各章、各パラグラフごとに良い例と悪い例が付属しており、自身の理解を確認しながら読み進められるので親切である。
次に、形容詞が少なく客観的な事実をベースに書かれているところが誠実で良い。例えば、「こうすれば相手に『簡単に』伝わる」とはほとんど言わない(一部例外有)。あくまで、できる/できないをベースに論が展開されており、学術的な文章に近いと言える。だからこそ、下手に情動を揺さぶろうとするビジネス書よりも信頼が高く、良い書籍だと思える。
最後に本書で指南されている内容がそっくりそのまま本書のフォーマットとして落とし込まれていることが素晴らしい。本書自体が「書く技術」の実践であるわけで、一冊約200頁が丸々お手本となっているわけである。したがって、1)で挙げたようなただでさえ豊富な例示に、本書が加わり、開くだけで学ぶことのできる一冊になっているのである。
以上、本書は一冊の本としてのクオリティがとにかく高く、技術としても、読み物としても楽しめるものとなっている。実際、私は本書の影響を受けて、この読書感想文をパラグラフで書いてみたが、どうだろうか。拙劣なのは言うまでもないのだが、とはいえ、楽しい。綺麗に構造化でき(たと思え)るとある種の爽快感や気持ちよさが私の心を満たしてくれる。
余談だが、どうやら著者は書く技術以外にもプレゼンに関する本も出版しているらしい。正直、プレゼン系の書籍は粗悪品がかなり多い印象があるのだが、倉島氏が書いたものであれば少し読んでみたい気もする。学びがあるかはともかくとして、彼がプレゼンというテーマをどのように扱い、本としてまとめるのかが大変気になる。機会があればぜひ読んでみたい。