見上げた空は青かった
小手鞠るい(2017)
講談社
感想
良いのは良いが、少し勿体ないと感じてしまった。
ひとつひとつの要素は、戦争の惨事を端的かつ正確に表現していて、円熟した著者の筆力が伺える。例えば、収容所にソ連兵がやって来たあとに少女ノエミの視界に映るのが「両手を上に挙げさせられ、整列させられた、ナチス親衛隊だった」のは、背筋が冷える恐ろしさを孕んでいる。かつてユダヤ人に対して行っていた所業が、ナチスに返ってくる有様は、一文で簡潔に語られるからこそ、冷酷な恐怖を覚える。
一方で、この対比は何だろうか。ショアに遭いながらも幼い妹の面倒を見ながら自ら運命を切り拓こうと歩みを進める少女と、疎開先の冷遇にひたすら耐え忍ぶ少年。二人は「ミミちゃん」というぬいぐるみによって結ばれているが、少年のそれが空腹の彼に米をもたらすのに対し、少女のそれは彼女の空想を闊歩するだけである。また、少年の家族は焼夷弾を受けても軽い怪我で生き延びているのに対し、少女の家族は妹を除いて最後まで安否不明である。
悲しいかな人の性よ、どうしても比較してしまう。そうすると、終盤で二人の口から語られる「大切な人を守れるよう強くなる」という決意の重みも異なって見える。少女のそれが真に迫る確固たるものだと感じられるからこそ、少年のそれは少女に比べてうすぼんやりしているように感じてしまう。
冒頭で述べたように、各要素で読むなら申し分ない作品だと思う。それぞれに、それぞれの残酷な苦しみがあって、著者の文章力によってそれらが余すところなく伝えられている。その一方で、どうしてわざわざ対比する構成にしてしまったのか、これが甚だ疑問でならない。