盆栽/木々の私生活

盆栽/木々の私生活

アレハンドロ・サンブラ, 松本健二(2013)

白水社

感想

すごく良い。言語化したくない良さがある。

とはいえそれだと感想文にならないので、私の中の名状しがたい感情を大切にしつつ、書いて考えてみる。なぜ、本書を良いと感じるのか。

まず、類似作品を挙げてみる。「聖なる怠け者の冒険(森見登美彦著)」と「おやすみプンプン(浅野いにお著)」が、本書を読んでいる間頭に浮かんでいた。前者は、作品があちらこちらへ枝葉を伸ばす植物性で、後者は、一人のありふれた人間の内面にクローズアップすることで独自性を見出す点において、本書と近しい存在のように感じた。

では、それらの要素に、なぜ私が惹かれるのだろうか。蓋し、私自身の価値観に共鳴しているからではないだろうか。

植物性では、社会人になっても未だに人生を一本に絞り切れない私との親和性が高いように思う。私は、社会人として働きつつ、創作活動を行っている。あるいは、韓国文学をきっかけにゼロから韓国語を勉強している。これらは序の口であり、いつまでたっても私の興味関心が尽きることはなく、指数関数的に増殖していくばかりである。そういうところが、孤独ながらも方々へ拡散していく木々に共感を抱き、本作を他人事のように思えなくしているのだろう。

また、ありふれた人間へのクローズアップというのは、まさに普段私が私自身に実践していることである。私は平凡な人間である。日本に住まう、一介のサラリーマンである。しかし、当の本人は、半ばそれを認めていない。私のこの感覚は、この感情は、この言葉は、私だけのものであると信じて疑わない。ゆえに、本書やおやすみプンプンに大して(勝手に)似た志向を感じてしまうのだろう。私は平凡でありながらも、絶対であると。

以上を踏まえて考えられるのは、「親近感」が本書を私にとって魅力的なものにしているのではないだろうか。勿論、作品としての普遍的な魅力は筆舌に尽くしがたいのだが、とはいえ私がことさら素晴らしいと感じるのは、本書が私の人生に深く重なってくれるからのように思う。

盆栽の世話をするように、生きていきたい。