砂の女

砂の女

安部公房

新潮文庫

感想

面白くなかった。好みではなかった。もう、それに尽きる。

まず、物語がひたすら単調。脱出を試みては失敗するばかりで、終盤で溜水装置を発見するまでは心境の変化なくただひたすら脱出して自身の元いた社会に戻りたいと思い続けるだけである。確かに、出来事一つ一つは面白くあるのだが、真ん中200頁くらいでやっていることがほとんど脱出と失敗だけであるのは、読み進めたくならずつまらない。

そして、オチも、現代の娯楽に慣れてしまった私にとってはひどく陳腐なように思えた。あの結末は、小学生の頃に知ったメダカの実験を思い出す。水槽の中心に透明な衝立を設置し、メダカはそれを視認できず衝立の向こう側に行けないことを学習し、やがて衝立が撤去されても最早向こう側に行こうとしないという話である。メダカの例のように、既にそういう結末を色々知っていたからこそ、とりたてて大きな衝撃があるでもなく、あっさりと終わってしまったという点でつまらなかった。

一応、文章の妙は多分にあるとは思う。極めて読みやすい文章でありながらも、比喩表現が巧みで、描写がありありと脳内に浮かぶのは、卓越した文章技術の成せる技である。ゆえに、展開のつまらなさも目につきやすいのかもしれない。描写力が高いからこそ、状況をあっさりと理解できてしまい、展開の良し悪しがより気になってしまうのだろう。

生誕100年を祝われる作家をこのように言ってしまうのは、なんとなく引け目を感じてしまうが、やっぱりつまらなかった。解説を読んでもなお、面白いとは思えなかった。残念。