ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか

ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか

ピアーズ・スティール, 池村千秋(2012)

CCCメディアハウス

感想

特別目新しい主張はないけれど、現状の自分と重ねることでいくつかの学びを得ることはできた。具体的には、「先延ばし克服の行動プラン」の3と5である。

まず「先延ばし克服の行動プラン3ー脳内コントラスティング法」にて語られる、空想についての説明が興味深かった。著者はフロイトを引きながら、人は空想するとそれだけで満足してしまうということを述べている。かなり耳の痛い話で、私は、目標を達成したときの妄想をしつつも現実と相対化せず、まさしく著者とフロイトの述べる通り、妄想だけで満足している状態になることが多々ある。

「コントラスティング」とあるように、先延ばしをしない上で大事なのは、妄想と現実を比較し、それを受け止めることである。加えて、著者はさらに「理想と現実のギャップをはっきり意識したうえで、それでも理想の未来を実現できる可能性に楽観的にいられれば、目標達成に向けたモチベーションがいっそう高まる。(p.181)」としている。私にとっては、この「楽観的でいる」というのが頗る難しい。だからこそ、本プランを実践できたときの効果も期待できる。

次に「先延ばし克服の行動プラン5ー先延ばし癖を自覚する」の少し前に語られている、ビクトリア朝時代のイギリスの格言が印象的だった。注釈で説明されるように、本来は2文ある格言を著者は「けっして例外を認めてはならない。(p.190)」と端的に表す。これもまた、耳が痛い話であるが、ここまできっぱりと例外なんてないと言いきった例を、私は初めて読む(あるいは読んだことがあったかもしれないが、いずれにせよ忘れていて、今回のこの言葉をとても新鮮に受け取ることになった)。

そう。例外は、ないのである。たとえどのようなイレギュラーが発生したとて、それが先延ばしの理由にはならない。(なんだか、電車の遅延を遅刻の言い訳にするなと言うブラック企業に近しいものを感じるけれども)私の抱えるタスクや目標で先延ばしにしてよいものなど何一つなく、私の周辺で起きる出来事に先延ばしの理由になるようなものは一切ない。そう心に刻めた時点で、本書からの学びは十分に得られたと言える。

本書全体の完成度としては、正直拙劣さが見受けられる点がいくつかある。例えば、行動プラン1と13がほとんど同じ内容だったり、プラン10はあくまでプラン1や2を達成したあとの話で、並列に語られるものではないなど、構造化できていない部分がある。また、マシュマロテストに代表されるように、情報が古く、一様に信頼することができないことも否めない(2012年邦訳の出版なので、当然っちゃ当然。あれ、2012年って12年前!!!!!!!??????)。とはいえ、自分自身と照らし合せていくつかの視座を得ることはできたので、取り立てて不満はなく、本書をきっかけに心機一転、目標に向けて努力したいと思うことができた。