死にたくなったら電話して
李龍徳
河出文庫
感想
禁書では?
ペシミズムの極致。高校生の頃に読んでなくて良かった。読んだタイミングによってはとんでもないインパクトファクターになっていたかもしれないと思うと、ぞっとする。精神の安定している時期に読んで、本当に良かった。
いやしかし、描写力には驚かされる。
特に関西弁(作中では大阪弁と書かれているが、関西弁のほうが馴染み深いのでその表記で進める)の混ざった日常会話のリアリティが素晴らしい。会話の途中で自然とノリツッコミをするあの質感は、私が関西で生活していた頃を思い出させるには十分すぎるほどの効果だった。情景が浮かぶ、声が聞こえるなんてものじゃない、私はああいう会話をしたことがあるというレベルまでリアリスティックに描いており、否が応でも作品世界に引きずり込まれてしまう。(関西以外の、特に関東や東北など関西弁にかすりもしない方言を使う地域の人々はこれを読んでどう思うのだろうか。)
そして、このリアリティが非常に良くない。どの言葉も、自分に刃を突き立てられているように感じてしまう。自分のことのように思えてしまう。途中までは、これがフィクションで良かったな~と思いながら楽しめていたが、有り余るリアリティがダイソンもびっくりの吸引力で心の闇へと引きずり込む。解説では、「捨て身のアイロニー」と評されてはいるが、捨て身すぎだよ!!!と叫びたい。本書は、読む劇薬である。
なんというか、ほんと、笑うしかない。今これを書いているときも、笑って書いている。笑って誤魔化さないと、本書に振り回されてしまう。それほどまでに筆力がある。ありすぎる。良くも悪くも、大きな力を持った作品だった。(この筆力の高さを人に薦めたい反面、この劇薬たる内容を薦めたくないとも思ってしまう、どうしよう)