「死にたい」と言われたら

「死にたい」と言われたら

末木新(2023)

ちくまプリマー新書

感想

2つの示唆を得た。

1)下準備の重要性

表題にもある通り、ある人が自殺を行おうとしているときの対処法として読んでいたが、むしろその前段階の下準備をいかに徹底するかが重要であることを学び、目から鱗な気分になった。また、下準備には2種類ある。一つは、自殺を企図している際に相談できる窓口(公私問わず)をあらかじめ確保しておくこと。もう一つは、自殺を企図していない間に自殺因子となる問題を改善するよう努めること。

本書では、今まさに自殺しようとしている人へどういう対応をすれば良いかも書かれているのだが、私の感想としては、できることがあまり多くはないように感じた。物理的に自殺が達成されないようにすることと、当人の話を聞くこと、この2つが主な対応策であり、それ以外にできることはあまりない。

加えて、人生で自殺したいと考えたことがある人は約3割いるそうで、それなりに大きい数字のように思う。つまり、人間は自他問わず自殺に関係する可能性が多いにあり、だからこそいつそうなっても良いような心構えや下準備をしておくことが重要であると言える。先に述べた、自殺しようとしている人への対応策の少なさも含めると、問題意識を持つべきは自殺それ自体よりもその前段階であるということがよくわかる。

2)人付き合いのジレンマ

1)にて下準備が大事と述べたが、本書ではその下準備にできることとして、あらかじめ頼れる人や相談窓口を確保しておくことが挙げられている。一個人の他者に関しては、普段から連絡を取るなりしていつでも相談できる状況にしておくことが、相談窓口であればいつ・どのような内容を・どのような態度で相談できるか事前に知っておくことが大切であると説明する。

しかし、人付き合いのしんどさで自殺を考える人はどうすればよいのだろうか。本書で説明される下準備にせよ、対応策にせよ、人とのコミュニケーションが必要不可欠であることが各所で協調されている。それは実際正しいとは思う。一方で、他者と関わることによる苦痛で自殺へと向かう人間もいるわけで、そういう人の、人付き合いのジレンマはどのように解消すれば良いのか疑問が残った。(とはいえそれは自殺というよりも対人関係の問題であり、本書のスコープからずれることは理解している、つもり。)