1R1分34秒
町屋良平(2019)
新潮社
感想
きもい~。主人公が、ひたすらきもいよ~。
本書は、体感8割が主人公の内省に占められている。そして、その内省のほぼ10割が、主人公自身についてである。つまり、終始一貫して主人公は自分自身のことしか考えていないのである。勿論、ウメキチや友達のように他者の名前が挙がることもあるが、それとて結局主人公自身がどう感じてどう考えるかに還元される。
この自分のことばかり考える主人公を全く好きになれず、作品に乗ることができなかった。ボクシングの経験者や観戦が好きな人はまた違う感想を持つかもしれないが、ボクシングには全く縁のない人生を送ってきた私にとっては、ただただ主人公が独り善がりに自己憐憫を振り回しながら無差別に周囲を傷つけていく様子にしか見えなかった。
上記のようにしか読めなかったので、中途半端に友情だの信頼だのと言葉を出されても、気持ち悪さしか感じられなかった。信頼も友情も、誠実に接するからこそ育まれるものであると思っているので、ひたすら己しか顧みない主人公がそういった言葉を口にするのは、どうにも場違いのように感じてしまう。
加えて、ウメキチにせよ、友達にせよ、主人公が彼らと出会ったのは偶然でしかない。現実であればそれで十分だろうが、これは文学である。きっちりと筋道立てる必要はないにせよ、自分のことしか考えない主人公が周囲の人間に恵まれて「信頼」という言葉を吐くに至るというのは、どうにも不快感を覚えるしかない。
芥川賞を受賞された作品であるからには、何かしら良さがあるのだろうが、私は本作を好きになれなかった。とにかく主人公に嫌悪感を覚える。それ以外に得られた感情は、ほとんどなかった。