寝煙草の危険
マリアーナ・エンリケス
国書刊行会
感想
アオイガーデンを読んだ時とほとんど同じ感想を持った。描写力はあるし、短編ながらも厚みのある作劇は素晴らしいとは思うのだが、私にはあまり刺さらなかった。(一応良いと思った作品もあるにはある。「肉」は私の好きな、言葉にならないでっかい感情があったし、「戻ってくる子供たち」では、著者の見つめる現実のブエノスアイレスの様子が透けていて興味深かった。)
かなり大雑把な所感だが、谷崎の春琴抄が本作と対極の場所に位置しているように思う。どちらもエロティックでグロテスクな描写があるのだが、春琴抄が「官能の神化」を目指しているのに対し、本作はかなりリアリスティックに描かれている。
ここに、私の好みの一端があるように思う。おそらく私は、ファンタジーなエログロは好きでも、リアルなそれは不快感が先に来て興味を持てないのだと思う。B級スプラッタ映画はキャッキャッと手を叩いて楽しめるけど、指と爪の間に針を刺す描写は楽しむよりも痛がってしまうという感覚に近い。実際、大好きな春琴抄でも佐助が目に針を刺すシーンはかなりきつい。
リアリスティックな描写は本作の魅力の一つではあると思う。しかし、描写力が高いゆえに、簡単にその描写を想像できてしまい、気持ち悪くなってしまうのだろう。読むときの体調に影響されるようにも思う。
余談だが、日本の裏側の小説に登場する日本の描かれ方が面白い。私が南アメリカ諸国の雰囲気に抱く思いが、そっくり反転して向けられているように感じられる。これは「盆栽(白水社)」を読んでいても感じたことだ。海を隔て、遠く離れた異国の地として、アルゼンチンと日本は異なる文化を持ちつつも、互いへの印象は案外似ているのかもしれない。