サンショウウオの四十九日
朝比奈秋
新潮社
好みでない、この一言に尽きる。類例を見ない特殊な結合双生児という設定は、アイデアとして面白いとは思うものの、当人の中にある人生観はかなり平凡で、いわゆる「誰しもが一度は通る道」をきっちりと通っているような人生に感じられる。
前提として、私は言葉にならない大きな感情を読むことが大好きだ。言葉で表現しきれないほどの超越した感情を文字によって得るという、矛盾した営みに歓びを感じているところがある。その点で本書を見つめると、私の求めるような大きな感情はどこにも見当たらなかった。
あるのは、29歳という年齢相応の諦念と達観や、親戚の死に起因する自分の死への想像という、ごくありきたりな内容だった。芥川賞受賞時の帯に「驚きに満ちた普通の人生」とあるように、劇的な境遇と普通の人生のコントラストが本書の魅力なのかもしれない。しかし少なくとも私の好みではなく、アイデア賞でしかないように思えた。