三部作

三部作

ヨン・フォッセ, 岡本健志, 安藤佳子

早川書房

感想

似た内容を繰り返すという、著者の特徴的な文章が裏目に出た作品で、私はあまり好きだとも良いとも思えなかった。朝と夕は、反復を通して人生に係る超越的な無常を表現していて、すごく味わい深かったのだが、本作ではただただ冗長だった。

特に第二部を読むのが苦しかった。呑気なのか肝が据わっているのか、人を殺して追われる身であるにも拘らず大枚を叩いてブレスレットを買おうとしているオーラブが気に障る。しかも、ブレスレットで生活費は消し飛び、残った小銭で飲みに行くのである。加えて、この時彼の妻は家を失い外に座らせて待たせているのである。さらにさらに、オーラブがブレスレットを買いに行こうとしたとき、彼の妻は「きっと捕まる」と注意を促しているのに、それを振り切っているのである。しかも、このブレスレットは結婚指輪の代わりとして購入しており、妻はまだ結婚指輪を持っていないのである。そしてそして…….。

と、言い始めたらきりがないのだが、オーラブの行動があまりにも思慮に欠けており、優先順位を見誤っている行動としか思えず、読んでいる間は常に「?」が浮かんでいた。なぜそんなことをする、お前には妻がいるだろう。なぜそんなことをする、顔が割れているのにバーに行くな。なぜそんなことをする、ブレスレットよりも今後の食費に充てろ。文句はいくらでも出てくる。

描こうとしているものはなんとなくわかった。テーマとしては「朝と夕」に近いとは思うのだが、「朝と夕」では主人公が種々様々な苦難を受け入れ、働いて子供を養い妻を愛し続けたのに対し、本作のオーラブはただただ逃避しながら刹那的に行動しているので、感動はない。「朝と夕」が非常に良かっただけに、すごく残念な気持ち。