韓国の「街の本屋」の生存探究
ハン・ミファ, 渡辺土香, 石橋毅史
クオン
感想
黎明期の苦労と楽しさが詰まった、味わい深い一冊。時事性もあるため、10年後や20年後に読み返すと、きっと異なる感情で読めるのだろう。(その時まで本屋や出版文化が衰退していないことを切に祈る。)
印象に残ったのは、ブッククラブの多さである。解説でも言及されているように、日本よりも多種多様で、本屋ごとにブッククラブがあり、そこで月に何冊か選書や読書会が行われるというのは心躍る話である。勿論クラブ開催による苦労はあるだろうが、本以外の、されど本に係る収益が見込めるので、日本の街の本屋さんでもぜひ増えてほしいところである。
また、ブッククラブの存在から図書定価制の存在意義についても考えさせられる。値下げ以外での他店との差別化を強いた結果としてブッククラブや、その他本書で紹介されているようなサービスが生まれたのだとしたら、図書定価制には継続するに足る価値があるように思える。一方で、消費者を中心に廃止を求める声もあるので、難しい議論である。
ところで、「ケアする建築」のキーワードである「利用縁」の存在が言外に語られていたことが興味深い(p.64 「趣向によって形成された共同体」)。日本と韓国でコミュニティの志向の変化に共通点があるのは面白く、こと本屋文化においては国の垣根を越えて切磋琢磨し合える可能性に満ちていて良い。韓国の本屋にも、日本の本屋にも行きたいと思わせてくれる。
本書では表題にて「韓国の」と銘打っているものの、韓国に限った話ではない。人がなぜ本を読むのか、本屋はなぜ存在するのか、地域や出版・取次とのつながりについてなど、幅広い視点で本を取り巻く環境について考えられるきっかけとなる一冊だった。