さらば、シェヘラザード
ドナルド・E・ウェストレイク, 矢口誠
国書刊行会
感想
久々に頭空っぽで小説を楽しめて良かった。正直なところ、欠点は多くある。冗長なのは言うまでもないし、メタフィクションという構造にせよもう一段階くらいメタの層が欲しかった。シェヘラザードの名を冠する割には、主人公エドが作品を書いているという構造でしかなく、仮に著者をメタ構造に含んだとしても三層程度にしかならない。
とはいえ、語り口が軽妙で、馬鹿馬鹿しい下ネタがたくさんあるので、肩ひじ張らずに笑顔で読むことができた。どれだけ欠点やいまいちなポイントがあろうと、これだけで満足である。正直感想もこれ以上書く必要がない。楽しかったの一言で十分である。
訳者あとがきを読んで
ずるいよ~~~~~~。種々の仕掛けに気付けなかったのが悔しすぎるよ~~~~~。当たり前のように登場するモネコイが架空の街であるのが面白いのは当然として、タイプライターの見本文を一番最初に持ってくるセンスや良し。しかも、オチに綺麗に結びついているのだから、本作は決して行き当たりばったりではない。著者のウェストレイクは主人公エドとは違って才能に満ちた作家であることをまざまざと見せつけられた。ウェストレイクの掌で踊らされた私、悔しいよ。
そして、これほどまでに癖が強くてバックグラウンド情報が多い作品を見事に翻訳し、あまつさえ解説までしてみせた矢口氏には拍手喝采である。加えて、本作を翻訳して展開した国書刊行会にも乾杯。根拠はないけど日本人ウケする作品だと思うからもっと広まってほしい(日本人は構成に凝った作品が好きな傾向にあると勝手に思っている。私の趣味か)。