食べることと出すこと
頭木弘樹
医学書院
感想
n=1の、極めて個人的な話だけれども、示唆に富んだすごく意義のある本だった。こういう本は、全国の図書館に所蔵して、広く長く読み継がれてほしいと思う。経験していないことにも想像力を持つ大切さと、経験していないことを完全に分かり合うことはないという諦念への理解、それぞれの思考の実践が本書で行われているからだ。
特に印象に残ったのは、第四章「食コミュニケーション 共食圧力」である。私自身は、大きな病気や怪我もなく健康に暮らしてきた人間なので、共食圧力を「かける側」である。その立場で本章を読むのはかなり心苦しかった。読んでいて、圧力をかけてしまったような出来事が多々思い当たるからである。
タチが悪いのは、圧力をかけている側に悪気がないところにある。良かれと思っている行動こそ、反省がない。あるあるではあるものの、その深刻さを改めて認識することができた。反省は、失敗やダメなことをしてしまった際だけではなく、良い悪い問わず常々行うべきであるというのが身に沁みた章だった。
また、同章内の以下も非常に印象的である。
生きることを愛する人が、健康的にもりもり食べる人を見て、素敵だと感じて好きになることがあるように、生きづらさを感じる人が、食事を拒絶する人を見て、心ひかれることも、大いにありうるのだ。
正直、食事を拒絶する人を見て心ひかれる気持ちは、全く理解できない。しかし、上記のように説明されると、理解できないなりにそういう人もいるものだと納得できる。おそらく私には、こういう思い込みがびっくりするほどたくさんあるのだろう。上記を理解できないように、他の思い込みや偏見でも、心からの理解をもつことはできないだろうが、それを受け入れられるだけの余裕と度量と自省は持っておきたい。