虚構の男
L・P・デイヴィス, 矢口誠
国書刊行
感想
終わり良ければ総て良し。結末さえ良ければ他の気になる点全てを許せる、そんな作品だった。
正直、気になる点はたくさんある。しゃらくさいラブロマンスや友情物語がある割には、アーノルド、カレン、ガレア、それぞれの関係性がそれほど深く描かれていない。神様視点のナレーターが淡々と状況を説明することが多く、作中のヒューマンドラマに感情移入することはできなかった。
加えて、冗長でもある。登場人物が多く、かつ群像劇になっているので仕方のない部分もあるのだが、それにしたって削れた部分はあるのではないかと思ってしまう。たとえば、タンのエージェントであるホルト少佐。彼は、敵対勢力の主犯という作中で重要な立ち位置を持っている割には、ほとんど描写されていない。そのため、いざ彼が黒幕であることがわかっても何の感動も興奮も覚えなかった。
このように、本作はハードカバーで約300頁と決して短くはない作品なのだが、如何せん登場人物が多いことによる描写不足と淡白さが気になってしまう。おそらく、全てを文字で表現しなければならない小説より、短時間で多くの情報量を伝えられる映画やドラマの映像作品として表現するほうがより良いのではないだろうか。
しかし!しかし!しかし!
そんなのどうでも良くなるほど、結末が素晴らしい。特級の化物が英国大統領として世に解き放たれる終わり方。人間が争い、モラルを捨てて生み出した人非ざる存在に、逆に支配されるという、メリーバッドエンド。私、こういうの、大好き。この、恐怖が尾を引く結末を読めただけで満足である。(裏バイト:逃亡禁止/ 田口翔太郎 に近いものを感じる。)