月の影影の海 下

月の影影の海 下

小野不由美

新潮文庫

感想

お、おもしれ~~~~~~~~~!

上巻の理不尽が、下巻での展開の気持ちよさの良いフリになっていて、無限にカタルシスを感じられる。上巻同様、文章自体は簡潔で読みやすいのに、陽子の懊悩は省略されることなく丁寧に描かれているから読み応えたっぷりで、とにかく気持ち良い。

意志のない一般人が、幾多の苦難を経てアイデンティティを確立していく様子というのは、オリジンストーリーとして王道だけれども、王道なりに外さない面白さが確かにある。上巻では全く感情移入できなかった陽子が、下巻で驚くほど魅力的な、王の器に足る人間にまで進化を遂げているのは、映画版ジャイアン効果のごとくギャップが効いていて面白い。

特に最終版で民を統治する人間としての「責任」についてまで考えられるようになったのは、もう保護者気分で感動してしまう。艱難辛苦を経て己を知り、身の丈を知り、他者を信じることの難しさを学んだ人間から放たれる「責任」という言葉は、口に出すよりも遥かに重い。だからこそ、確かな読み応えになっている。

ただ一点だけ好みに合わなかったところがある。楽俊はネズミのままでいてくれ~~~。異種恋愛は「異種」だから良いのであって、下手に擬人化されると冷めちゃうよ。(元々半身半獣という設定だったので、作品としての違和感はない。単に私の好みに合わないだけ)あと、楽俊がイケメン男子になっちゃったせいで、延国の王たち含めてギャルゲが始まりそうになっている雰囲気なのもちょっと嫌。今後の展開がどうなるかはわかんないけど、冒険譚を中心に物語が展開していってくれると嬉しいな~なんて思う。