窓ぎわのトットちゃん
黒柳徹子
講談社文庫
感想
生きることへの純粋な自信が随所から伝わってきて、仮に本書の回顧録の内容が事実として不正確だったとしても、著者がどのような環境で過ごしてきたかに疑義がかかることは絶対ないように思えた。それほどまでに、本書は自信と誇りとエネルギーに満ちていて、すごく眩しくなった。
……とはいえ。
正直、展開がわかってしまう。第二章の「窓ぎわのトットちゃん」までを読めば、今後の展開が概ねわかってしまう。一般的な学校では受け入れられないようなことも受け入れてくれて、生徒たちが容姿や性格に囚われず、互いを尊重しながらのびのびと成長していくお話。令和の世になってしまえば、そういうハートフルなストーリーはごまんとあるので、どうしても、良い話以上の感慨がなかった。
特に今年は、モモ、トムは真夜中の庭で、本作と、情操を育む児童文学を多く読んでいるせいか、少し食傷気味になっているところがある。個性豊かな作品を、一言でくくってしまうことが良くないことは理解しているのだが、実際問題として本書にはそこまで感情を揺さぶられなかったのは、かなり残念だった。
ただ、ベストセラーであることにも納得できる。本作が出版されたのは1981年とバブル期真っ只中。消費に次ぐ消費が当たり前だった頃に本書が世に放たれるのは、1976年に日本でモモが出版されるのと近いものを感じる。当時の人々は、バブルに浮かれていたとはいえ、本作のような慈しみ溢れる作品に、大なり小なり心を動かされたのだろう。
モモのときにも、トムのときにも書いたが、心の避難所としてこういう作品を知っておくことは大事である。疲れたとき、目まぐるしく忙しいとき、ほんの少しでも本書を思い出すことができれば、少しは心が軽くなるだろう。そういう意味で、本書の存在はすごく大きなものだとは思う。