韓国は日本をどう見ているか

韓国は日本をどう見ているか

キム・キョンファ, 牧野美加

平凡社新書

感想

東京に15年以上暮らした韓国出身のメディア人類学者という、この人にしか書けないのではないかと思える唯一無二の素晴らしい一冊だった。文化を相対化することで気付きを得られるというのは、「文化人類学の思考法(世界思想社)」で読んだが、本書はその実践であり、あまりにも多くの学びと気付きが詰まっている。

まず、日本の「汎用ワード:すみません」や「お・も・て・な・し」が、「自己満足的な文化」であると評されているのが非常に面白い。確かに、すみませんやおもてなしなどの他者を立てて自身を落とす文化の背景にあるのは、相手への思いやりというよりも、不必要な衝突を避けたいという利己的な思いによるものでもあるかもしれない。

以前インターネットのどこかで拾ったのだが、コミュ障は自己中という言説に似たものを感じる(ここでいうコミュ障は、明確な病気でなく、単に人に気を遣いすぎておどおどしてしまう人のことを指す)。コミュニケーションを円滑に行えない理由の根本が、自分が傷つきたくないからであるため、極端な気遣いはむしろ相手のことを誠実に考えない自己中心的な行動だとする言説である。

もちろん、いずれにせよ自己中心的と性急に結論付けるべきではない。本当に相手のことを思いやって、すみませんやおもてなしを提供する場合もあるし、コミュニケーションが円滑に行えないのは過去のトラウマに起因する可能性だってある。あくまで、そういう一側面があるという話ではあるが、どちらも私にとって目から鱗が落ちるような気付きを与えてくれたことに間違いはない。

それから、「終戦記念日 / 敗戦記念日」の言葉について議論があるということにも、驚きだった。戦時中に大日本帝国が朝鮮へ侵略したことについては知っていたものの、そのような歴史的な出来事が、たった五文字の言葉にまで反映されているという事実に全く思い至らなかった。自分の不勉強によるものでもあるのだが、本書を通して気付けた価値はすごく大きいと思う。

挙げていけばキリがないが、本書には本当に気付きが多い。二十余年を日本で暮らし続けているものだから、種々の「コード」が、意識しようとしてもできないレベルで染みついてしまっている。そういう、土台のような「常識」を改めて見直せるという意味で、本書の存在は非常に大きく、広く読まれてほしい一冊だった。