アルケミスト
パウロ・コエーリョ, 山川紘矢, 山川亜希子
角川文庫
感想
爽やかですごく気持ちの良い冒険譚。本書のテーマでもある、「心の声に耳を傾ける」ことを主人公が違和感なく自然と実行しているので、物語が詰まることなく、流れるようにすらすらと進んでいく。艱難辛苦はあれど、心の声に耳を傾けながら宝を目指す主人公には、多分にエネルギーが満ちており、読者はそれを一身に味わうことができる。
目的は宝探しではあるものの、主人公に他者を蹴落とすような貪欲さやがめつさを感じないのも、本書の読み味を爽やかにしている一因である。持ち前の視野の広さが、旅の中で存分に生かされているために、常に見晴らしの良い景色を見せてくれているような心地よさがある。
また、登場するキャラクターたちが人間味に溢れているのも良い。寓話のような性質もあるため、ややもすると極端なキャラクターになりかねないのだが、登場人物たちの茶目っ気が肩の力を抜いてくれる。主人公の師となる錬金術師にしても、鉛を金に変えた理由を「見せたかった」からと語るし、ゴールがスタート地点にあるとわかっていても「ピラミッドを見てほしかった」という理由で遠回りをさせる。ふふっと笑える遊び心が、長旅に疲れた読者を癒してくれるのだ。
そして、宝の在り処が物語の始まった場所にあるのも良い。元の場所に戻ってきたからといって徒労感を覚えるようすは全くなく、むしろ充実感に満ち満ちた主人公の姿が堂々と描かれており、後光が差しているときのような眩しささえ感じる。さらに、紆余曲折を経て主人公の経験した出来事全ては、風となって読者と作品世界を繋げてくれる。それによって読者は自身の心の声が少しだけ聞きやすくなるのである。