読書会という幸福
向井和美
岩波新書
感想
この本の著者は、私なのではないかと思う。そう勘違いするくらい、私の読書会への想いが言語化されていて、共感しっぱなしだった。本を媒介して人と通じ合う歓びというのは、内向的でありながらも閉塞的でなく、抜けるような心地良さを持つことがよくわかる。
特に、30年以上読書会で付き合い続けた上で、互いの素性をはっきりと知らないままでいるという関係には、そもそもまだ30年も生きていない人間として憧れるところがある。「ケアする建築」での利用縁を思い出す関係で、深すぎず、かといって浅すぎない、良い関係だと改めて感じ入る。
また、本書は海外古典文学の副読本にもなりえる。それも、一人の著者の後ろに大勢の読書会メンバーがいるので、本書を読むだけで読書会の気分を楽しめる。もちろん文字通りの対話はできないが、他者の読書体験を共有してくれるという点で、ただ感想やレビュー読むだけには留まらない経験を与えてくれる。
著者自身が言及している通り、本書は表題含め、読書会を外へ向けておすすめしようとする内容ではなく、著者の読書会体験がひたすら書かれているだけである。しかし、著者の人生と読書会参加者の人生、そして数々の作品たちが交じり合うことで、「幸福」がありありと浮かんでいる。読者が、読書会という幸福に魅了されることによって、結果として本書は開けたものとなるのである。