東の海神 西の滄海
小野不由美
新潮文庫
感想
十二国記シリーズ初めての、あまり面白いと思えなかった作品。とはいえ、欠点をあげつらうような面白くなさではなく、単に私が十二国記の世界へ馴染めなかったことが大きいと思う。
まず民衆の、王に対する価値観があまりしっくりこなかった。王を絶対視するのはまだ受け入れられるものの、それを理由に謀反を起こした斡由を責め立てる様子には、どうにも納得のいく解釈を得ることができなかった。斡由自身が言うように、元州の調子が良いときには斡由を持ち上げて、いざ戦況が悪くなれば逆賊と罵るのはあまりにもダブルスタンダードでいかがなものかと思ってしまう。
また斡由自身も、終盤に向かうにつれて己の保身を最優先にする下劣な輩と評されてはいたものの、事実として州を治める能力があったのは確かである。そして謀反の一因には、尚隆の怠慢も少なからずある。それらを踏まえると、斡由が100%下劣な悪役とは思えない。まあ、尚隆はそれを見抜いていたからこそ彼を殺さなかったのだろうが、それにしたって斡由の理解者の不在があまりにも悲しい。
それから、蓬莱出身の登場人物が多いことがすごく気になった。蝕って結構レアなイベントだと作中で語られていたはずなのだが、十二国記のこれまでの主要人物には必ず蓬莱出身がいる(1作目:陽子、2作目:泰麒、3作目:尚隆)。なろう系転生ものの匂いが漂い始めているので、次作はそうではないことを祈りたい。