ほろよい読書
織守きょうや他
双葉文庫
感想
お酒と同じく、少し苦く、風味豊かな作品ばかりで、呑みつつ読むのにぴったり合う、肴のような一冊。私はニッカ セッションをハイボールで吞みながら読んだ。セッションの爽やかな飲み味が、各話の気持ちの良い顛末と重なって、すごく良い心地で酔うことができた。
個人的なお気に入りは、柚木麻子氏の「bar きりんぐみ」。Zoom飲み会をテーマにした本作は、没入感があって、読み手である自分もbar きりんぐみに参加したかのような高揚感を覚える。勿論彼らと会話できるわけでもなければ、そもそも独り身である私には子育ての苦労を親身に感じることすらできない。しかし、各々が好き勝手にお喋りをする賑やかで楽しい雰囲気は存分に実感できて、心が軽くなるような読書体験となる。
それから、「ショコラと秘密は彼女に香る」も大変良い。作品の顛末にカタルシスを覚えるのも素晴らしいのだが、それ以上に、象徴的に描写されるチョコレートボンボンに目を奪われる。特にその食べ方。ばくばくと勢いよく食べられるのでなく、大事に丁寧に食べられるたった一個のボンボンの中には、行間と情感とリキュールがたっぷり詰まっていて、実際に食べるよりも味わい深い。
本作は全体を通して、さっくり読めるけれど、軽すぎず、重たすぎず、酒に酔いながらでも楽しめる。だからこそ、家やカフェでの読書とはまた違った読書体験を味わわせてくれて、読書の楽しみがより広がったように感じる。今まで気にしたことがなかったが、酒に合う本を探してみるのもまた楽しいだろう。