近畿地方のある場所について

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背筋

KADOKAWA

感想

私が本書を買った時点で、16刷まで重版されていた。つまり、日本は終わりと、そういうことです。伝染型の怪異が、メディア力をもって爆速で広まっている。見つけてほしがっている怪異はさぞ喜んでいることでしょう。巻き込まれた私はたまったもんじゃありません。

それはともかく、没入感たっぷりのホラーは中々読まないので新鮮に楽しむことができた。正直、早い段階で怪異の全体像を説明する子供の遊びが紹介されたため、なんとなくの顛末を読めてしまったというのはあるけれども、わかっていてもなお怖いというところが良かった。

また、本書はある意味日本ホラーの集大成と言えるかもしれない(単に「ネット怪談の民俗学」を読んだだけだが)。因習系怪談、インターネットで拡散する怪談、伝統的な学校の怪談、宗教系怪談、叙述トリック的怪談、など、様々な要素をごちゃ混ぜにした特盛りホラーでもあり、筆力さえあれば面白くならないわけないとも思える。

それで、実際筆力があるのだから天晴れなものである。淡々とした筆致で寒気を伴う恐怖を喚起させるのもさることながら、口語体と文語体の絶妙なバランスが印象に残る。文語としての読みやすさを持ちつつ、口語によって没入感を演出していて素晴らしい。

それから、本の造りにも様々な工夫が凝らされていて良い。奥付以外は全て本編で、装丁全体を通しても無駄な装飾がない。唯一あるのは裏表紙側の帯の「『このホラーがすごい!2024年版』(宝島社)国内編第一位」という文言だけ。それも帯にしては控えめな級数で、作品の完成度と宣伝の折り合いをぎりぎりまで検討した結果のようにも思える。

このように本書は、要素特盛りホラー、筆力のある著者、気合いの入った装丁と、ベストセラーの要点を押さえた、売れるべくして売れた作品である。比較的最近の本ではあるものの、既に名作の雰囲気を纏っていて、後世にも残る作品の1つになるだろう。そして、本書で紹介された怪異は後年に渡って広まり続けるのだろう。