感想
多種多様な人々と関わることの楽しさがこれでもかというほど描かれていて、元気が湧いてくる一冊。特に私自身、今月で読書会に行き始めてからちょうど1年が経つような身の上なので、本書の内容には終始大きな共感を抱くことができた。人と関わることはちょっと怖いけど、関わってみると案外楽しく沼である。そんな様子が伝わってきて、ふらっと外へ出てみようかと思えるのだ。
ところで、トリリオンゲームの「コミュニケーションは投資」の話を思い出す。軽い挨拶は10円の投資、簡単な会話は100円の投資。そこに失敗したら10円・100円の痛みを伴うけれども、大した痛みではない。この投資の額を少しずつ上げていくことで単なる知り合いでは留まらない関係に発展していくという話だが、本書ではまさにその営みが行われている。知らない人とのコミュニケーションに少しずつ慣れていき、素敵な出会いが増え、その出会いが新たな出会いをもたらすポジティブな連鎖が描かれているのだ。
それから本書は積読を大量に増やす本でもある。何せ著者がおすすめする本は、誰かのことを考えながら選ばれたのだから、一冊一冊が他にはない輝きを持っている。読書会で知る本でも、紹介者の人生経験と交えておすすめされるほうがやはり興味をそそられるわけで、そういう意味では本書は何十回分の読書会のアーカイブみたいなものにも思えてくる。
かくいう私も、この本を通じて楽しい出会いがあった。読書BARにて知り合った客に、本書の著者が現在「蟹ブックス」という書店を経営していると教えてもらったのだ。本書を電子書籍の割引セールでジャケ買いし、読んでいる最中だった私はそんな面白いこと露知らず、蟹ブックスを通して話が大いに盛り上がったのだ。書いていて、なんだか本書をダシにしているような感じもするが、この出会いはあくまで偶然である。機会を増やせばこういうことも起こりうるという話で、ごくごくシンプルに楽しい。
話を戻すが、本書は良い意味で地味である。突発的な大事件が起こったり、劇的なドラマがあるわけではない。しかし、1対1という最小単位のコミュニケーションから、少しずつ微調整を加えて自身の在り方をチューニングしていく著者の姿がありありと映し出されている。このような、着実に一歩を踏みしめて行動していく話には、圧倒的な明るさと肯定がある。言い換えれば、本書にはエネルギーが満ちていて、読んでいるうちに、読者たる私自身にもそれを分け与えてくれるような心持になる。
いきなり誰かと込み入った話をするのは難しくても、自分の好きな本を紹介するくらいならできるかもしれない。もし気の合う人が見つかれば、その人の好きな本について話してみても良いし、あるテーマで議論を交わしても良いかもしれない。それができるなら、さらに人を呼んで、自分自身が読書会やイベントなどの主催をやっても良いかもしれない。本書は、こうした明るい未来に向けて一歩を踏み出そうと思える勇気を、確かに与えてくれるのだ。