PRIZE

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村山由佳

文藝春秋

感想

エゴ!大!爆!発!

とにっかく心がヒリヒリする。一時も休ませてくれない。どれだけ和やかで穏やかな描写だろうと、隠しきれない不穏さが常に見え隠れしている。アウトレイジの「全員悪人」よろしく、本作は「全員エゴイスト」であり、もはや極道のドンパチよりも激しい舌戦と筆戦が繰り広げられている。途轍もない熱量が、読者の身を焦がさんと襲い掛かるのだ。

当然、楽しい。ずっと楽しい。私の普段読む作品からは味わえないスリリングな緊張感が心地よく、文字を読んでいるということすら忘れて、作品世界に没頭できる。天羽カインの怒号は実際に鼓膜を揺らしているし、パラノイアすれすれの千紘の狂気は鳥肌を立たせている。緊迫感、臨場感、躍動感のオンパレードである。

それから、どことなく「Whiplash」を思い出す。天羽カインは当然フレッチャーだし、千紘もニーマンも、物語が経過するにつれて師匠がドン引きするほどの執念を見せる。「賞」という明確な指標がある点では異なるけれども、文学と音楽という、芸術に身をやつして狂ってもなお心血を注ぐという点において共通項が見いだせるように思う。

ファッキン・テンポ!!! 
直木賞!!!
語感もちょっと似てるかもしれない。

それはさておき、かくも偏屈で激情そのものでありながらも、天羽カインには苛立ちを全く覚えないのだから面白い。蓋し、誰よりもストイックに努力し、誰よりも売上を叩き出し、誰よりも読者のことを考えているからだろう。それどころか、愛嬌さえ感じられて、人間味溢れるキャラクターに仕上がっており、著者の凄まじい筆力が伺える。

(めんどくさいので一人ずつ書きはしないけれども)登場人物一人一人が「核=エゴ」をずっしりと持っており、それらが剥き出しになってぶつかり合っている。現実世界では、そうした衝突は醜いものなのだが、こと作品というフィルターを通してみると、むしろ美しささえ感じられる。エゴはつまり欲である。誰しもが持つ普遍的な感情であり、「共感」というより「当然」であり、皆が胸中に飼っているエゴという化物は、紙面でのみ解き放つことができるのだ。

本作にはとにかく楽しませてもらった。真のエンターテインメントといって差し支えない、ただただ楽しい作品だった。