感想
圧倒的な、あまりに圧倒的な、何か。
因習にうねる一族と、彼らを支える人間でない存在の、長きにわたる命と血と心の物語。こう、言葉にできない、切で切で泣きたくなる感情が詰まっていて、ただただ無量。家族の在り方、他者との関わり方、それらにまつわる肯定と否定を愛で包み込むような作品で、ある種、生命、世界への賛歌のように思える。
家という、血の呪縛を守った者、逃げた者、疑う者、否定する者、笑う者、その全てをYouは見ており、遍く愛をもって彼ら全員を記憶している。人に非ざる存在でありながらも、その姿はどこか自然を思わせて、大地そのもののような安心感を与えてくれる。悲喜こもごも、賛否両論、それらを全て受け止める度量が本作には存在していて、その懐の広さに、ただただ感嘆するばかりである。
ただ、とんでもなく贅沢な我儘を言えば、もっともっと紙幅を割いて、もっともっと丁寧に物語を紡いでほしかったように思う。約160ページで百年の孤独ばりのかけいとんでもなく贅沢な我儘を言えば、もっともっと紙幅を割いて、もっともっと丁寧に物語を紡いでほしかったように思う。約160ページで百年の孤独ばりの家系図の話を書くとなると、どうしてもダイジェストになりがちで物足りなさを感じてしまうところも少なくない。
実際、回想シーンは特に、要点は押さえているものの、仔細に欠けるところがある。ジェンダーや家父長制等々の社会性のある話題が登場するが、良く言えば「否定しない」一方で、悪く言えば日和見主義で議論を避けているようにも思える。本作への私のざっくりした評価は「良」であるものの、おそらく体調が悪いときに読んでいればそういう粗が目について「微妙」な評になっていたように感じた。
それに、真昼&日向・陸夜&桜李の話はそれ単体でも一つの物語になるポテンシャルが十分にあるのだから、回想であっさりと終わらせず、もっと重厚にしっかりと語ってほしかった。この辺りは、最近のワンピースに似ている。エニエスロビー頃は一巻丸々ロビンの過去回想にページをたっぷり使えたのに、最近はそれができない(or しない?)せいで各キャラの掘り下げが全体的にあっさりしがちなのだ。あとはダンダダンも、第一話から一貫して、感動ストーリーのツボ「だけ」を的確に押さえた構成になっていて、こちらにも類似性を感じる。
とはいえ、上述した不平不満はあくまで本作の完成度が高いからこそである。Youの独特な語り口は、最初こそ読みづらさを覚えて中々ページが進まなかったが、次第に慣れて、そのリズム感を楽しめるようになる。登場人物の造詣も、それぞれに画が浮かぶような設定が用意されていて、漫画原作者の力量を感じさせられる。
そもそもこういう行間がたっぷりと設けられた作品は、言葉で語りきれないのが当然だし、むしろ語るべきではない(ここまでめっちゃ語ってるけど)。遍く世界への愛を感じて、胸中に棲まわせることができれば、それこそが本作との最も尊い接し方ではないだろうか。