ロイヤルホストで夜まで語りたい

ロイヤルホストで夜まで語りたい

平野紗季子 他

朝日新聞出版

感想

はじめに

 平野紗季子氏の一文目でがっちり心を掴まれたと思いきや、竜頭蛇尾のごとく勢いを失っていった。公式では17名が参加されているので、好みでない方がいるのは当然である。ただ、ロイヤルホストというテーマがゆえか、書き手の力量が如実に表れているようにも思えて、良くも悪くも典型的なアンソロだった。以下では、各節の内容を3種に分けて語っていきたい。

1)ロイヤルホストで夜まで語りたい

 まず、ロイヤルホストでなければ成立しない文章である。これに該当する節は、全て大当たり、内容如何を問わず面白い。平野氏を始めとして、熱量が他の方とは明らかに異なる。ファミレスや、高級レストランでなく、「ロイヤルホスト」だから良いのだと、「ロイヤルホスト」でないとダメだという想いが溢れていて、ロイヤルホストの経験がなくても心に響くのだ。

 最近「世界一流エンジニアの思考法(文藝春秋)/ 牛尾剛」で感じたことだが、衒いや飾りなく純粋に真っすぐ書く文章には、やはり心打たれる何かがあるように感じてならない。やや極端な言い方をすると、「飾り」というのは蓋し、嘘なのだろう。文章を華やかにしようと大袈裟に語っても、所詮は嘘であり、読者は無意識のうちにその嘘を敏感に察知するのかもしれない。

 だからこそ、一縷の嘘もなく語られる言葉には心を打たれ、ロイヤルホストで夜まで語りたくなるのだろう(実際、本書を読んで私はロイヤルホストへ初めて行った:詳細は余談にて)。

2)ロイヤルホストは高いけど美味しい

 この内容の多いこと多いこと。私は底意地が悪いので、「とりあえず高級なことに触れておけばロイヤルホストらしくなるだろう」という存在しない思惑を読み取ってしまった。確かにロイヤルホストは高くて美味しいので、「たまの贅沢」的なエピソードには事欠かないだろう。とはいえ、そういう貧乏美談は古今東西語り尽くされているので、我儘な読者としてはよりオリジナリティのある話を読ませてほしかったと思ってしまう。

 それに、ロイヤルホストは明確に高級店として打ち出しているので、歯嚙みする想いを覚えるのは当然ではないだろうか。例えば仮に、サイゼリヤなどの格安チェーンでさえたまにしか行けないのであれば、オリジナリティにもなるだろう。しかし、ことロイヤルホストに関しては足繁く通えない人のほうが多いのだから、たまの贅沢的エピソードはある意味当然で、どうにも陳腐に感じられてしまう。というか、ロイヤルホストに頻繁に通えるなんて!!!ブルジョワジーめ!!!羨ましい!!!

3)ファミレスかどこかで夜まで語りたい

 その話、ロイヤルホストでなくても成立するし、もはやファミレスでなくても良いのでは? そう思える話もいくつかあった。ロイヤルホストでなければ成立しないエピソードを17つも集められるはずもないので、仕方ないのは理解しているものの、読んだときの肩透かし感には何度経験しても慣れない。

 記憶に残る出来事の舞台がたまたまロイヤルホストだった、というのも確かに味わい深い。ただ、そういうエピソードの場合は、メニューなんて覚えていないこともあるだろう。だのにわざわざ詳細にメニューを書くものだから、その文章だけわざとらしく浮いてしまって、心がすーっと離れてしまうのである。

まとめ

 本書は、ロイヤルホストの入り口としては素晴らしい一冊である。確かにがっかりするようなお話もあるものの、ロイヤルホストへの魅力は、行ったことがない人こそより顕著に感じられるのではないだろうか。本を通じて、社会と新たな接点を持つという意味では、本書の存在意義はかなり大きく、いまいちな話含めて読んで良かったと思えたのは事実である。

余談

 平野氏があまりにも美味しそうに語るものだから、初めてロイヤルホストへ足を踏み入れてみた。「黒×黒ハンバーグ」「オニオングラタンスープ」「ホットファッジサンデー」を頂いたので、以下、その感想+ホスピタリティについて書いていく。

1)ホスピタリティ

 入店直後の声かけから、他のファミレスとはホスピタリティが異なることを実感。料理よりもまず、ここで心を掴まれたような気がする。

 接客業を経験したことのある身からすると、正直、時給以上の接客に対して申し訳なさを感じてしまう。とはいえ、気持ちの良い接客をしているのは事実なので、本当にありがたい限りであり、終始穏やかな気持ちで食事を楽しむことができた。ぜひ、たくさんのお給料を貰い、たくさんのまかないを食べてほしい。

2)オニオングラタンスープ

 コトコト煮込んでとろけるような甘さの玉ねぎとコンソメの組み合わせがたまらない。チーズはあくまで玉ねぎを邪魔しない程度ではあるのだが、むしろそれが丁度良い味変になって楽しい。温かさも相まって、メインディッシュの前でも、最中でも、後でも最適な一品だった。

3)黒×黒ハンバーグ

 圧倒的「肉」。凝縮された「肉」。旨味がぐっと詰まっていて、満足感が二重丸。ある意味文章と同じで、余計な衒いや飾りのない、真っすぐなハンバーグ。だからこそ、その味と食べ応えに素直に感動することができるのだろう。

4)ホットファッジサンデー

 君はパフェだ。パーフェクトだ。骨抜きにされてしまったよ……。

 まず、コーンフレークを使っていない! 偉すぎる! 景表法違反のパフェが跋扈する世の中で、そもそも使わないという選択肢が存在していたなんて……感無量である。しかも、コーンフレークの代わりに入っているのは、ほのかにシナモンの香りのする、砕かれたビスケット。これが美味しいのなんの。コーンフレークでは絶対に得られない満足感と幸福がたっぷりと存在している。

 次に甘味のフルコース。ホイップクリームやチョコレートアイス、バナナにカカオなど、ありとあらゆる甘味がぎっしりと。甘党の、甘党による、甘党のためのパフェではないだろうか。まさに甘味の桃源郷。糖尿病なんて気にしてられるかってんだという心意気が感じられて、もう、ありがとうございますという言葉しか浮かばない。

 極めつけは、ホットチョコレートのソースである。冷たいと熱いのマリアージュは、コメダのシロノワールで実証済なのです。美味しくないわけがない。しかもこちらは自分でかけて良い。始めにカップから溢れんばかりにたっぷりと入れるのも良し、少しずつ少しずつ確実にかけていくのも良し。創造と享受を同時に味わえる悦楽は、他に存在しないのではないだろうか。そう思えるほどに、幸福に満ちた時間なのだ。

まとめ

 ホットファッジサンデーのことしか考えられない。