感想
シリアスなトイストーリー。流石のウッディも、アンディにここまでヤンデレな感情を持つことはないだろう。「なんなん」にしても、中々ヘビーな愛を持っているようだが、何十年と連れ添えば、人間を屠ることくらい容易いのは納得できる。いずれにせよ、二体のぬいぐるみが、互いの持ち主を想っている姿には、ぬいぐるみ好きとして胸がいっぱいになる思いである。
それゆえ、疑問に思う。これはホラー小説なのだろうか。確かに、くますけは殺人を犯したぬいぐるみである。なんなんも、何人か既に殺めてそうな雰囲気を醸し出している。とはいえ、それはあくまで持ち主を想ってのことである。葉子にせよ、成美の両親にせよ、庇う余地のないほどの悪意が描写されているせいで、くますけの行動がそれほど悪いことのように思えないのだ。
確かに、成美の今後の人生でも、くますけが何かを起こす可能性はある。しかし、結局のところその行動の根本には成美への愛があり、持ち主を傷つけるようなことをしないのであれば、特に問題はないのではないだろうか。悪人に対してセカンドチャンスが与えられないのは、昨今の風潮として一抹の疑義は残るかもしれないが、とはいえ勧善懲悪的フィクションと割り切れば、むしろくますけはヒーローのようにしか見えない。
それに、重たい愛は、フィクションだからこそ良いんです。現実世界には、しがらみが多くあり、重たい愛を受け入れることも、与えることもままならない。だからこそ、小説の中の世界だけでも、人を殺せるくらいドカ盛りの愛を読んでみたいのだ。そういう意味で、本作はホラー小説というよりも、純愛小説だと私は思うのである。
結局、人間なんかより、ぬいぐるみのほうがよっぽど信頼できる存在なんです。QED.