魔法少女はなぜ変身するのか

魔法少女はなぜ変身するのか

石井研士

春秋社

感想

 思ってたんと違う。というか、悪書。今年のワーストとして、ビックリハウスとかなり良い勝負をしている。

 まず、タイトル詐欺である。「魔法少女はなぜ変身するのか」と引きのあるタイトルを据えておきながら、それに対して明確な回答がないのは、景表法違反ではないだろうか。著者は宗教が専門なので、そうした観点から変身について語るのかと思いきや、ただ魔法少女コンテンツの潮流を辿るだけで終わるので、研究というよりも、アニメの視聴歴をまとめているだけに近い。しかも、第二章・第三章はもはや魔法少女すら登場しないのだから、言葉がない。

 そして何より、著者の研究に対する姿勢が好ましくない。というのも、分析対象のテクストを否定しているのだ。

 具体的には、初代プリキュアの製作者がプリキュアを「ちょっとした不思議」と形容したのに対して、「シリーズ毎に敵キャラが設定され、街や人が巻き込まれ世界が危機に瀕するのは『身近にあるちょっとした不思議ではないだろう』」と否定する部分がある。確かに、著者の言う通りかもしれないが、論破して何になるのだろうか。著者がどう思おうと、当事者がプリキュアを「ちょっとした不思議」として制作したという背景は紛れもない事実であり、変えようがない。だとしたら、明らかなファンタジーであるにも拘らず製作者の口からは、「ちょっとした不思議」という言葉が出てくる理由を考えるべきではないだろうか。

 このように、本書では全体的に、無用な論破が多い。Twitterで勝手に投稿していただく分には構わない。ただ、決して安くない本として研究を上梓するのであれば、どんなテクストであれ、書かれてあるものは一旦そういうものだとして受け止めて、それが表象される背景にまで想いを馳せてほしい。「マリリン・トールド・ミー(河出書房新社)/ 山内マリコ」で語られていた、「昔の文献を読むときには、それが書かれた時代についても読み解いていくことが必要」が全くできていないのである。

 総括すると、研究結果は芳しくないけど、費やした時間が勿体ないからとりあえず本にしました、という装いの一冊である。研究対象は違えど質的にはビックリハウスとほとんど同じで、学術書なだけあって高価な分、そのお粗末な内容が余計に悲しい。たぶんnoteのほうが面白い考察転がってるよ……。