感想
「近畿地方のある場所について」よりは怖くなかった(精一杯の強がり)。というのも、前作に比べると、各章の関連が薄い他、読者の日常に迫るエピソードが少ない。前作が「没入型」であるのに対して、本作は「観測型」であり、物語を俯瞰して見ている分、怖さが和らいでいるという印象である。
それから、本書のストーリーが「でっちあげ」を軸に動いているというのも、怖さ軽減の要因でもある。前作は著者(とされる人)が読者に語りかける形で、特定の現象の真相に迫ろうとしていたが、本作では真相に迫ることが目的でなく、むしろ「売れる」物語を生み出すというところに焦点が当てられている。もちろんその「でっちあげ」の過程で、「本物」らしい存在とすれ違うことはあるものの、基本的には「フィクション」に軸足を置いているのでまだ優しい。
加えて、メインの登場人物が逞しいのである。特に小林は、自身のメディア力を使って意図的に人を殺しているのにも関わらず、自責の念に苛まれることのないふてぶてしさを持っている。宝条も、元々「見えている」だけに、そうした存在を利用してやろうという野心が強い。物語終盤ではひどく錯乱する池田でさえ、超常的な力で殺してしまったと思い込んでいた想い人が生きていたと知った際、凝りもせず「いっそ、本当に死んでいたら」と零す。登場人物が全体的に図太いがゆえに、読者にもそれが伝播し、怖さというよりも面白さが先行するのである。
とはいえ、怖かったのもまた事実。人間の想像力の豊かさの功罪を考えさせられるのである。というのも、私が主に恐怖を感じるのは、文章を読み、そこから枝葉が伸びていく妄想が原因なのである。もちろん本書の内容が怖いというのもあるが、どちらかというと本書の内容がいかに私に影響を及ぼすかという点で、いかに私の身辺で同様の事象が発生しうるかという点で恐怖の大小が決まるように思う。前作同様、本作でも語りの余白が上手だからこそ、私はその隙間に恐怖するのだ。
以上、個人的には前作のほうが好きだったかもしれない。ヒトコワ系も好きだが、怪異主体のホラーのほうが好きなのかもしれない。あとは、背筋氏という作家を全く知らずに読んだ前作に比べて、前作の衝撃を踏まえて読んだ本作という背景の違いもあるだろう。いずれにせよ、4か月に一回くらい読むのが丁度良いと感じた。ホラー、面白いんだけど、連続で読み漁るにはちょっと精神力が足りてない……。