山手線が転生して加速器になりました。

山手線が転生して加速器になりました。

松崎有里

光文社文庫

感想

 淵の王を書くのに疲れたので、読書メモを載せて感想文をでっちあげるものとする。一応軽くまとめると、突飛な発想と暖かい物語が著者の筆力で綺麗に融合していて、良い意味で軽い気持ちで楽しむ読むことができた。

 ちなみにこの本は、淵の王と同じ読書会で私が放流しました。達者でな!!!

以下、読書メモ

p.12 何もかも間違ってるツッコミばりおもろいやん

山手線が転生して加速器になりました。

 ツッコミ不在の恐怖、もとい面白さ。

 ただただ楽しい。加速器や人間の存在理由に根源的な意味が存在しないように、本作もまた、小説作品としての意味や意義は薄い。しかし、物語に没頭し、素直に笑える時間を与えてくれるという点で素晴らしい作品だと思う。設定の突飛さ、山手線の子供らしい愛らしさ、中央線の人間臭さ、コロナに敗北した人間たち、知的好奇心を認めると侵略を取りやめるちょっと可愛い外生物、そのどれもが魅力的で、楽しいのだ。

 余談だが、本作の背景に「翻訳教室」があったりはしないだろうか。「翻訳教室」には〇〇線になった気持ちで文章を書いてみようという課題が登場する。大変安直だが、本作を読んでいる間ずっと、この課題が頭をチラついて離れなかった。だからなんだという話ではあるものの、翻訳の真髄が書かれた本から、こんな奇天烈おもしろ物語が登場したのだとしたら、愉快な気持ちになる。

不可能旅行会社の冒険

 どうして一番大事な和解パートを丸々スキップするんですか!!?? 自身の罪を認めて、反省し、当事者と対話を重ねるという、小説として最も味わい深い瞬間を、どうして丸ごと捨象するんですか!!??

 悲しい。打ち切り漫画のような喪失感。物理学や科学の話が多く、大半が解説パートになっていたからこそ、ビーバーが裏切り行為を行った時点でようやく物語が動き出すのかと思っていた。ところが、予想に反しては物語は動き出すどころかダイジェスト的に終わりを迎えた。読者の想像におまかせという言葉があるが、流石に任せすぎである。

 ただ、「不可能旅行会社」というコンセプトはすごく心躍るので、「山手線が加速器に転生して一年がすぎました。」のように続編を書いてほしいと思う。

未来人観光客がいっこうにやってこない50の理由

気持ちの良い話だね。

マクロ経済学者らしく、社会構造から未来予測をしていて、そこに個々人のモラルや価値観を含んでいないから、かなり性善説に頼っているところがあるように思う。だけど、そういう反論点をつつくのは野暮と感じさせてくれる心地よさがある。

未来の人類が、過去の人類をあたたかく包んでくれるのは、インターステラーのような展開で、そりゃあ良い話になるよなと。

山手線が加速器に転生して一年が過ぎました

前の話と同じく、プロローグで終わっちゃった感。新キャラを登場させて、既存キャラと確執を生むところまでは王道展開なのだが、そこで終わってしまうからもどかしい。

外生物の侵略を退けるという展開も、天丼するには弱いかなあと

ひとりぼっちの都会人

あったけえ話。

コンクリートジャングル東京も、かつては生態豊かな自然であったことを思い出せる豊かな作品。

あと、日本の器は触られる前提で作られているという一文が良い。読んでるだけだけど、器の手触りが直に伝わってくるようで楽しい。

みんなどこへ行ったんだ

たこさん賢い。

星新一好きなのぇ、こういうトンチと皮肉が効いてるお話は楽しい。