感想
え、終わり!!!???
出たよ宙ぶらりんパターン。シュウェブリンの「救出の距離」以来の拍子抜け感。緊張感はずーっと持続していて、不気味なことこの上なかったのだけれども、主人公である女優に全く動きがないものだから、少し物足りなく感じたのが正直なところ。
特に、説明文を書く谷崎は、明瞭でリーダビリティはあるのだけど、情緒に欠けるところがある。彼の中で、どんな読者でも理解できるようにという配慮があるのかわからないが、ともかくわかりやすさと引き換えに、文章そのものの味わい深さが減退しているのは確かで、本作はそういう説明文が多かったからこそ味気なさを感じてしまったのだと思う
確かに人面疽は不気味である。VFXがなく「焼き付き」によって特殊な表現を演出していた時代だからこそ、よりその得体の知れなさは引き立つ。しかし、人面疽の宿主である女性と、現実世界にいる女優との関係は、仄めかされもせず、ただ似ているというだけに過ぎない。ホラーとしてもミステリとしても事物の繋がりが希薄で、もう少し想像の材料を与えてほしかった。
青空文庫には田中貢太郎による元ネタの紹介があったが、怪霊雑記が粉本になっているとのことで、まあ、王道な怪談ということだろう。息抜きには面白いといった感じでした。