幽霊屋敷レストラン

幽霊屋敷レストラン

松谷みよ子 他

童心社

感想

 小さい頃はまっていた怪談レストラン。ふと思い出して大人買い。読んでみればまあ面白い。子供の当時では気づかなかったことがたくさんあって、内容をしっかり覚えているはずなのに、子供のとき以上に新鮮に楽しめた。怖さは和らぎ、味わいは深まり、二十年熟成させた美味しい読書体験だった。

 何よりもまず面白いのが、その構成である。子供の頃はただ怪談が並んでいるだけにしか思っていなかったのだが、ちゃんとレストランのコースメニューになぞらえられている。「幽霊屋敷」でレストランの成り立ちが語られ、席までの道中に店内の装飾を「あの世からのバラ」で紹介してくれ、そうしてようやく一品目の「予約席」にありつける。店に到着してから、一口目を頂くまでのわくわくがちゃんと再現されているのである。

 そして、本格的な怪談をメインディッシュとして楽しみつつ、定期的に舞台が海外だったり、ファンタジックだったり、味変も用意してくれる。デザートなんかはほっこりできちゃって、しっかりした怪談の食後には丁度良い食べ応え。そして〆にもう一段怪談を提供してくれて、お店を出るその瞬間まで、しっかりとホスピタリティを感じさせてくれるのである。なんて素敵なレストランなのだろうか。幼少期の私がはまるのも無理はない。

 それからもう一つ印象的だったことがある。「追憶」の話が思いのほか多いのだ。勝手な偏見で、怖がらせる怪談ばかりだと思い込んでいたのだが、全くそんなことはなく、様々な理由で死別してしまった人々を忘れまいとする想いが随所に見られ、怪談なのになんだか心にじーんと沁みた。恐れを越えてまで誰かを想う姿もメニューの射程に入っているわけで、これはもう一流の三ツ星レストランに他ならない。天晴。

 何より幸せなのは、あと49冊も残っているということである。幼少期、私は全てを読んだわけではない。何なら、2巻の化け猫レストランは未読である。これから、まだ見ぬ素敵なレストランへ行くことができると思うと、今からわくわくと涎が止まらない。何をきっかけに怪談レストランを知ったかは判然としないけれど(たぶんアニメ)、セレンディピティに感謝である。